変わらなきゃいけない。
それは決して悪いことじゃないはずだ。新しい、もっと幸せな生活にできるはずだ。
メイドさんたちだって、お父さんとセックスしなくて済むんだし。
ちょっとした勇気と、変わりたいという気持ち。それがあれば変われるんだ。
わたしだって変われる。
引っ込み思案だった自分を変えたいと思った。高校入学を機に、いままでとは違うわたしになりたいんだ。ママは応援してくれてる。
お父さんだって、もなかさんだって、あずきさんだって――。
誰だって変われる。
昼食のあと、お父さんともなかさんはまたガレージの二階にある書斎に戻っていった。お父さんは文学部の先生だ。大学はお休みだけど、お仕事はあるらしい。
午後は読書をして過ごすことにした。あずきさんの持っていたポピュラーサイエンスの本を貸してもらい、リビングで寝椅子に寝そべった。
しばらくすると、あずきさんが車で買い物に出かけた。しばらく戻らないという。
別荘の母屋には、わたしひとりだけになった。
そのまま読書を続けていたんだけど、好奇心がむくむくと沸き上がってくる。
さっき見せてもらったバイブレーターのことが気になる。
あずきさんたちの部屋には、ほかにもいろいろな大人のおもちゃがあった。おとといはじっくり見る時間がなかったけど……。
見るだけならいいよね。
いや、やっぱりよくないか。
でも、見てみたい。
わたしは本を閉じて、寝椅子から起き上がった。
見るだけだよ。見るだけ。
葛藤をかかえながらも三階にあがった。階段から階下の様子をうかがう。確かに誰もいない。いまなら大丈夫だ。あずきさんだって文句は言わないだろう。
でもなあ……。やっぱり失礼だよね。
メイドさんたちの部屋のドアを前にしても、なかなか決心がつかない。なんだかいたたまれなくなって、隣の部屋に入った。物置になっている部屋だ。
けさ、あずきさんがオナニーしていた部屋。
そうしてベッドの上にバイブレーターが放置されているのを見つけてしまったんだ。
思わずベッドに走り寄った。仰向けのラブドールの脇に置かれたバイブレーター。あずきさんが使ってたヤツだ。片付け忘れてそのままになってたんだろう。
手にとってみた。スイッチを入れると、グイングインとスイングをはじめた。電池は入ってる。
「ははは……」
苦笑いしてスイッチを切った。
ベッドの上にコンドームがあった。帯状に連なった粉薬の分包のようなそれが、コンドームだということはわかる。学校でも習ったし、つけ方もママに教えてもらった。
「これは……使ってみなさいってことだよね、あずきさん」
バイブレーターを手にしたままドアを開けて、もう一度誰もいないことを確認した。
よし、決めた。やっちゃおっ。
コンドームのパッケージをひとつ切り取った。それをピリッと破いて中身を取り出す。コンドームをバイブレーターの先端に付けると、ママに教わった要領で装着した。
それから、ベッドに放置されていたローションのボトルを手に取った。パッと見には化粧水かシャンプーの容器のように見える。蓋をはずして、コンドームを付けたバイブレーターの上で逆さまにする。
とろーり、と粘り気のある透明な液体が垂れてきた。はちみつのような感じだ。バイブレーターの先端からとろとろと垂れていく。
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