第12話 エンジェルフォール (05)

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 夜になってから美菜子ちゃんにあたしの体験を話した。援助交際をしていれば美菜子ちゃんも同じような事件に巻き込まれてしまう危険がある。ショウマに近接格闘術の手ほどきを受けていたから、まねごとだったけど何とか切り抜けられた。もちろんケンカ慣れした相手には通用するわけないし、返り討ちにあって手ひどく強姦されるだろう。援助交際とはそういう危険と隣合わせのゲームだ。

 美菜子ちゃんには改めて慎重になるよう伝えた。

 石田さんともうひとりの都庁職員が逮捕されたというニュースが流れたのは火曜日のこと。売春防止法違反と集団強姦罪の容疑だ。都知事が会見を開く羽目になった。半年前からふたりで共謀して援デリをやっていたという。一万五千円から二万円程度で女の子に売春をさせていたらしい。

 ニュースを聞いて梨沙が電話してきた。

「通報したのは、実はあたしなんだ。あいつらに強姦される寸前だった」

『大丈夫なの、沙希? 警察は余罪を追求してるって言ってるよ。沙希のところまで辿られる可能性はないの?』

「たぶん大丈夫だと思う。もし警察に事情を聞かれることになっても、実際に何もしてないんだし、ごまかせるよ」

『ならいいけど。そういえば魔法の掲示板が閉鎖されちゃったね。この事件の犯人たちも使っていたかもしれないね。気に入ってたのに迷惑な話だよ』

「そうだよね。ねえ、梨沙はどうやってお客さんを探してるの? 主要ルートだった魔法の掲示板がなくなっちゃったから、どうしようかと思ってるんだけど」

『わたしはお客さんに紹介してもらうこともあるよ。信頼できる人の紹介なら安心だし』

「男の人ってお気に入りの女の子をシェアすることに抵抗ないのかしら」

『どうなのかな。あとはマッチングアプリ。GPSを使って、いまここにいるから遊びませんか、って感じでやると、どんな人が来るだろうってドキドキする』

「それ、ちゃんとした人が来てくれるの?」

『もちろんその場で交渉して、気に入らなければお断りするよ。何人もの男の人が集まっちゃうこともあって、そういうときは交渉の順番待ちになっちゃうけどね』

「それはちょっと笑える光景だね。料金の吊り上げもできそう」

『まあね。でも、わたしはお金より刺激とスリルを求めてるから、フィーリング重視。初対面のワンナイトはけっこうある。やさしいおじさまは探せばいっぱいいるよ。沙希は最近なにか刺激的なセックスはした?』

「刺激的っていうと……、縛られてセックスした。それがすごくよかった」

『エ、SMってこと!?』

「着衣緊縛っていうんだって。SMとはちょっと違うらしくて、鞭で打ったりローソク垂らしたりっていうのはない。身動きできないように縛られて、バイブでイカされまくってからレイプシチュで本番。誘拐されて監禁されて、とことん犯されるっていうイメージプレイになるのかな。けっこう興奮する」

 梨沙が息を呑むのがスマホ越しに伝わってきた。

『わたし、それやってみたいッ。ねえ、沙希、その人と連絡取れないかな。わたしも縛られて犯されまくってみたい。若い人? おじさま?』

 梨沙の食いつきに苦笑した。

「まあ連絡は取れるけど。ていうか、あたしの恋人。つまり恋人契約してる人なんだ。四十代で、性癖以外はまともな人」

『恋人かぁ……。じゃあ、無理は言えないね』

「いや、別にいいよ。援助交際の恋人だし。あたしも彼が他の女の子と遊びたいなら力になってあげたいし。ただね、その人、セックスはあんまりなんだ。早漏なの。原因は精神的なものだから、あたしは彼を直してあげたいんだ」

『本番なしでもいいから、会ってみたい』

「いちおう、話だけはしてみるよ。お堅い職業だし、妻子のある人だから、会ってくれるかどうかは分からないけど。援交で女の子を食いまくってるような人じゃないんだ。梨沙のプロフィールはどこまで伝えてもいいのかな」

『その人が沙希について知っているのと同じくらいのことを言ってもいいよ』

 あたしは笑った。それじゃぜんぶだ。藤堂先生はあたしの担任なんだから。

「お嬢さま学校に通う十六歳、高校二年生で援助交際の常習犯、って感じ? ねえ、梨沙は援交するとき、いつも十八歳未満だってことをお客さんに打ち明けてるの? あたしは少女の幼い体を堪能してほしいから未成年だって明かしてるけど」

『わたしもよ。お客さんには女子高生とのセックスを楽しんでほしいじゃない。でも、高校生だと高額料金を渋る人もいるのが悩みよね。沙希もでしょ? 若い子の方が価値があるのに、子供扱いして小遣い程度でいいだろうと思う人がいるから。お金が目的じゃないけど、そういうセコい人は嫌。そんなときは援デリみたいに大人の人がマネジメントしてくれたらな、って思うこともある』

 やっぱり梨沙も苦労してるんだな。

 自分でお客さんを探して、料金の交渉もして、暴力から身を守るのも自分でやらなきゃいけない。そりゃ苦労もするか。

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