お兄ちゃんと恋のライバル (04)
この聞き方ならおかしくないだろう。もしも優姫さんがお兄ちゃんの恋人だとしたら、優姫さんははぐらかすかもしれないけど、顔には出るはずだ。
「いないよ」
即答された。優姫さんの口調から、実際にいないのだとわかる。ちょっとほっとした。
「な、なんだ、彼女いないんだ。しょーがないな、お兄ちゃんは。じゃあ、チョコレートももらえないんだろうな。かわいそうな兄のために、今年もかわいい妹がチョコをあげるとしますか」
そういってあたしたちは笑いあった。
「まあ、直人くんが義理でないチョコをいくつもらえるかはビミョーだけど、今年は少なくとも一個はもらえるよ。わたしがあげるもん」
優姫さんは、えっへん、と胸を張った。
あたしは自分の笑顔が凍りつくのを感じた。それって、お兄ちゃんに本命チョコを渡すってことですか。幼なじみの美少女から告白されて二人はカップルに……。そんなアニメのような恋物語がこんな身近にあったとは。
ていうか、あたしぜんぜん勝ち目ないんですけど。いや、妹だという究極のハンデがなかったとしても、優姫さんが恋のライバルじゃとても太刀打ちできないよ。
「でも、どうせフラれるんだけどねー。あっはっはっ」
優姫さんはまた笑い声をあげた。
そんなハズはないだろう。優姫さんは美人で明るくて優しくて、こういうのは癪だが、優姫さんがお兄ちゃんの恋人だったら、あたしはおとなしく身を引いてもいいと思い始めていたのだ。ひょっとしたらそれは叶わぬ恋をあきらめる口実にしたかっただけなのかもしれないけど。
結局あたしは妹なんだ。
お兄ちゃんの彼女になんてなれるはずがない。
手作りチョコなんて、もうやめようかな。
「あ、直人くんだ。おーい、な、お、と、くーん!」
優姫さんの声で我に返った。優姫さんは右手をいっぱいに伸ばして軽く跳びはねながら、お兄ちゃんに手を振っている。
お兄ちゃんも学校から帰ってきたところのようだ。あたしたちに気づくと足をとめた。優姫さんがお兄ちゃんに駆け寄ると、お兄ちゃんはちょっとあわてた様子で後ずさった。顔を赤らめているように見える。そう、ちょうど気になる女の子に話しかけられたときに照れ隠しに冷たい態度をとってしまう純情少年のように、だ。
「は、早瀬、お前またそんな格好で外を出歩いて。だいたい、どうしてうちの妹と一緒にいるんだ。お前ら、仲良しだっけ?」
そのつっけんどんな態度が怪しいんですけど、お兄ちゃん。
「うん、ちょっと一緒に買い物してたんだ。ねー、まりもちゃん。わたしたち友だちだもんねー」
「そ、そうなの、お兄ちゃん」
あたしも応じた。
お兄ちゃんはあたしが買い物用のエコバッグを提げているのに目を留めた。あたしはあわててバッグを後ろに隠した。
「なんで隠すんだよ」
お兄ちゃんが訝しげに言った。このままだと追求されて口を割らされてしまう。なんとか誤魔化さねば。
「そ、それは……」
お兄ちゃんにあげる手作りチョコの材料だよ。なーんて言えるわけないだろーが。しかも互いを意識しているのが見え見えな優姫さんとお兄ちゃんの前でなんて。
助けてくれたのはまた優姫さんだった。
「それは内緒なのでーす! ねー、まりもちゃん。女の子どうしの秘密だもんねー」
「そうそう、女の子どうしの秘密なんだから!」
お兄ちゃんは一瞬呆けたような表情になったが、すぐに、
「女の子どうしって、お前、早瀬は男だぞ」
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