美少女ランキング。
確かにそう書かれていた。そのタイトルの下にはカラープリンターで印刷された何枚もの少女たち――のイラストが貼り付けられている。アニメやゲームのキャラクターだ。プリンターが古いからか、印刷の一部がかすれていた。
どうやらこの一年間のアニメやゲームの萌えキャラを、コンピューター部が独自にランキング形式で紹介するものらしい。これを文化祭で展示するつもりなのか。
どっちにしても、あたしたちを悩ませているランキングとはまったく無関係だ。
吉田さんは、あっけにとられている岡野会長から、ひったくるようにして模造紙を奪い取った。
「笑いたけりゃ笑えよ。コンピューター部といっても、たいした知識はない。アキバだって電脳の街から萌えの街に変わったんだから、コンピューター部がゲームやアニメを中心に活動してたっていいだろ。そもそもぼくたちは最初から三次元なんて相手にしてないんだよ。わかったら出てけよ、三次元!」
あたしと岡野会長を追い出すと、吉田さんは戸をピシャリと閉じた。
会長は毒気を抜かれた様子で呆然とたたずんでいた。あたしも何と言っていいかわからずためいきをついた。
結局、コンピューター部でも手がかりは見つからなかった。
最後は書道部だ。
部室には三人の女子生徒がいて、雑誌を広げておかしを食べながらおしゃべりをしていた。菊川さんという二年生の部長が、書の展示だから直前に焦って書くわけない、文化祭の準備はもう終わったのだと説明した。
菊川さんたちは校内美少女ランキングのことを小耳に挟んだことはあるけど、見たことはないと言った。管理人にも心当たりはないそうだ。
「それにこの部室は男子禁制だぜ」
と、菊川さんは意味ありげに口元を歪ませた。この部屋に男子生徒がカメラを持ち込むことなどありえないという。
三人が見ていた雑誌はティーンズ向けのファッション雑誌だった。横から覗いてみると、ちょうと小川さんと真木瑠璃先輩の写真が載っているページが開かれていた。
「会長、このページの写真はサイトにあったものと同じです。これ、今月号ですよね」
あたしが尋ねると、菊川さんがうなづいた。
犯人はこの雑誌に掲載されたふたりのモデル写真を、ケータイで撮影してサイトに使ったんだ。隠し撮りするより簡単だし、プロのカメラマンが撮ったものだから当然だけどうまく撮れている。
菊川さんは雑誌に頬ずりした。
「わたしは美菜っちのファンなんだよね。やっぱ、カワイイよぉ」
「いいえ、部長。小川さんが可愛いのは確かですが、一番はマキルリ先輩です」
一年生の女の子たちが反論した。
「我々が追っているランキングでは、いまのところ小川さんが一位だ。マキルリは僅差で二位だな」
「ほれみろ」
岡野会長の言葉に、菊川さんはうれしそうにガッツポーズをした。
菊川さんはレズビアンというわけではないようだけど、可愛い女の子が好きなんだろう。女子が好きな女子が、校内美少女ランキングを運営することはあるかもしれない。でもあのサイトはやはり男子が作ったものにしか思えない。
どうやらここも空振りだ。
盗撮現場のはずの文化部の部室棟三階。そこにある部室はすべて見て回った。手がかりも目撃者も見つからなかった。だけど、犯人がこのフロアにいたのは確かなんだ。
これからどうするか考えていると、岡野会長のケータイが鳴った。電話に出た会長の話しぶりからすると、相手は生徒会の役員の人のようだ。会長は「わかった、すぐ行く」と答えて電話を切った。
「すまない、美星さん。生徒会の仕事だ。行かなくてはならん。きょうのところは管理人を見つけられなかったが、わたしとしても何とかしたい。あす、きみに連絡してもいいかな? できれば、きみの協力がほしい」
「はい、もちろん」
「じゃあ、もしよければメールアドレスを交換させてくれないか?」
あたしは体温が上がったような気がした。岡野会長とメアド交換させてもらえると思ったら、なんだか無性にうれしくなった。
ドキドキしながらメアドと電話番号を交換し、部室棟の前で会長と別れた。
とりあえず、きょうは帰宅するしかない。
あたしの家は学校から歩いて二十分ほどの静かな住宅地にある。六畳二間、2Kのアパートの二階だ。帰りついたのは五時を過ぎた頃だった。
[援交ダイアリー]
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