人妻セーラー服(06)

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 ヒラコーというのはくるみの母校の陽蘭高校の通称だ。読みは「ようらん」だが、「ひら」とも読めるため、高校生の間ではヒラコーで通っている。

 くるみは女子高生っぽく振る舞ったつもりだったけど、かなりあざとい仕草になってしまった。この女は二十五歳の主婦なのだ。いくらうまく化けたとしても、相手は現役の男子高校生。普段から本物のJKを見慣れている。彼らの目を欺くのは困難を極める。ナンパされたからって浮かれている場合ではない。

「だけどぉ、あたし、彼氏いるからなぁ」

「あ、やっぱり? こんなに可愛いもんね。じゃあさ、こないだ近くにできたケーキ屋さんでお茶しながら話そうよ。おいしいって評判なんだ。それくらいなら彼氏だって許してくれるでしょ」

 どうやら男子高校生たちはくるみの正体を微塵も疑っていないようだ。それに気をよくしたくるみは、ソフトクリームを舐めながら、この二人をどこまでだませるか試してみたいと考え始めていた。

 そしてナンパの誘いをOKしようとした瞬間――。

 いきなり別の男に横から肩を抱き寄せられた。その男も高校生で、陽蘭高校の制服を着ていた。細身で背が高く、びっくりするほどのイケメンだ。

 イケメン高校生はくるみをナンパしていた二人に向かって、

「わりーな、こいつ、俺のだから」

 と言い放った。

(はあ? なんだ、この子。あたしが誰のものだって?)

 呆気にとられて声も出せないくるみ。しかし、二人組の高校生の方はさっきまでの笑顔が消し飛んでしまい、すごすごと立ち去っていった。まあ、いきなり格上のイケメン彼氏が助けに現れたんじゃ、そうするしかないだろう。

 いたずらを未然にじゃまされてムッとしたくるみは、イケメン高校生を下からにらんだ。

「いいかげん、その手を離してくれない? あたし、あんたのモノじゃないから」

「別に礼には及ばねえよ。お前みたいにトロそうな女はすぐナンパに引っかかるからな。知らない人についてっちゃいけません、って先生に言われてるだろ」

 イケメン少年は悪びれることなく、バカにするような笑みを浮かべて言った。上から目線で――実際、くるみより頭一つ分も上からだ。

(しつこいナンパから助けてやったんだとでも言いたいのか、この子は)

 くるみはソフトクリームの残りをコーンまでむしゃむしゃと一気に食べ終えると、自分の肩に回されたイケメン少年の手の甲を思いっきりつねった。

「イテテっ」

 くるみの予想外の反応にあわてて、少年は手を離した。

「あんた、ヒラコーの生徒だよね。王子様気取りでナマイキ言ってんじゃないわよ。ガキのくせに」

 言いながらくるみは改めてイケメン少年をにらみつけた。陽蘭高校の男子の制服はネイビーの学ランで、いわゆる海軍服というやつだ。前がファスナーになっているのだが、少年は胸元を開けてシャツを見せていた。襟章を見ると二年生。ということは年齢は十六歳だろう。くるみより十歳近く下だ。

「ったく、カワイイ顔して乱暴な女だぜ。お前だってヒラコーの女子だろ。しかも一年生。こないだまで中坊だったガキじゃねーか。先輩にはもっと敬意を払うもんだ」

 ああ、そういえばパステルブルーのスカーフは一年生用だった、とくるみは思った。後輩だと思われたことはうれしい。でも、こんなめんどくさそうなヤツに関わってもロクなことはないだろう。

「ちょっと顔がいいくらいで調子に乗らないで。そんなんで女の子が誰でもなびくとは思わないことね、せ・ん・ぱ・い」

 クルッと背中を向けてすたすたと去っていくくるみを、少年は呆然と見つめた。

 やがて、かすかな笑みを浮かべ、くるみの後ろ姿につぶやいた。

「フッ、おもしれー女」

 この少年、陽蘭高校では、いや、近隣の高校でも有名なイケメンだった。悪ぶってるようでも成績は優秀で、部活には入っていないがスポーツも万能。もちろん女子にもモテる。校内にファンクラブがあるほどだ。過去に何人もの女を泣かせていると噂されていたが、いまは付き合っている特定の恋人はいない。むしろ、言い寄ってくる女子の多さにうんざりしていた。

 だから、くるみの態度は少年にとっては意外であり新鮮だったのだ。

 こんど学校で会えるときが楽しみだぜ、などと考えていると、突然くるみが立ち止まるのが見えた。くるみは振り向いて反対方向に歩きだしたかと思うと、また立ち止まり、やっぱり思い直したというふうにまた振り向いた。この女、道に迷ったのか、と少年が思っていると、こんどは早足で脇目もふらず自分の方へ向かってきた。

 何かにおびえているような、余裕のない表情だ。

 なんだなんだと思っていると、くるみが少年の腕にしがみついて、顔を伏せたまま体をくっつけてきた。声をかけようとすると、くるみが制した。

「お願い、このままじっとしててッ」

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