もなかさんは上品な笑顔を崩さずに、
「申し訳ありません、莉子お嬢さま。これは桃山(ももやま)あずき。わたくしと同じく、栄寿さまにお仕えするメイドでございます。あずき、お客さまに失礼をお詫びなさい」
「そういう問題じゃないでしょ。まさか、この子が新しい犠牲者に……」
「あずき!」
もなかさんが厳しい口調であずきさんを制した。
「くっ、ごめんね、お嬢ちゃん。でも、もなか、この子はまずいだろ。この……、この……」
あずきさんはわたしの首に抱きつきながら、
「こんなにかわいいんだからッ」
わたしは照れてしまって、何も言えなくなってしまった。でも、かわいいからまずくて犠牲者って、どういうことだろ。意味がわからん。
「莉子お嬢さまは、栄寿さまのご親戚のお嬢さまよ。だから、心配することもないでしょう」
「でも、この子のこのかわいらしさを見ろよ。あたしの好みのタイプだよぉ」
あずきさんが頬ずりしてきた。
「あずき、いいかげん、莉子お嬢さまから離れなさい」
もなかさんがあずきさんのほっぺたをつねった。あずきさんは「イテテテッ」と声を上げて、わたしから引き離された。
「重ね重ね、申し訳ありません。莉子お嬢さま」
「いえ、別に……」
そこで、わたしはまだ自己紹介をしていないことを思い出した。もなかさんは初めからわたしのことを知っていたようだけど、あずきさんは知らないようだ。
「あ、あの……。わたし、柊莉子っていいます。栄寿さんの親戚のもので……、その、わたしの生物学……、いえ、えっと、父親にあたる人が栄寿さんのお兄さんということで、あの、母がぼたもちを作ったので栄寿さんに持って行くようにと……」
わたしは手に持っていた風呂敷包みを差し出した。
「ああ、お彼岸ですからね。ご丁寧にありがとうございます。栄寿さまを呼んでまいりますわ。あずき、莉子お嬢さまにお茶をお出しして」
もなかさんが立ち去ると、あずきさんがわたしを二階のリビングに通した。
リビングは二階の大部分を占める三十畳ほどの部屋だった。白を基調にした室内は明るく、きれいに片付けられている。部屋の中央にこたつテーブルがあった。ラグに寝そべってくつろぐのがこの別荘のスタイルのようだ。
ふたつの壁がガラス張りになっていて、おだやかな海が一望できた。きょうはよく晴れていて、水平線まではっきり見える。
「莉子ちゃんは栄寿さんの姪だったんだね」
背後からあずきさんが声をかけた。両手に持ったトレイに紅茶ポットとティーカップを載せている。
「はい。もっとも法律上は親戚ではないんですが。母はシングルマザーだったものですから。あずきさんも、ここに住み込みで働いていらっしゃるんですか?」
「そうよ。もなかとは高校の同級生でね。卒業したときから、ずっとふたりで栄寿さんのお世話をしてるんだ。もう、二年になるわね」
どういうことだ。栄寿さんは一人暮らしだと思ってたのに、ふたりの超絶美人メイドと同居してるなんて。もなかさんひとりだったら、栄寿さんと恋愛関係なのかも、とも思えるけど、ふたりってどういうことよ。
エッチなこともしてるのか? ふたりとか? まさか、三人でか?
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