「ところで、あたしは沙希っていうんですけど、リサっていうのは商売用の源氏名?」
「まあ! 本名ですよ。でも、源氏名をつけるというアイデアはなかなかステキね。ちょっと考えてみようかしら」
穂波梨沙というのが彼女の名前だった。高校一年生で、先月十六歳になったばかりだという。うーむ、いろいろと誤解してたようだ。
「沙希さんも高一なんだ。ほかの女の子とこういうおしゃべりができるのって楽しい。わたしは子供のころからエッチなことばかり考えてる子で、友達の前では本当の自分を出せなかった。ものごころついたときにはオナニーをしてたし、小学生のときにはレイプされるところを想像しながらオナニーにふけっていたんですよ。誰にも言えなくて、わたしは変態なんだと思ってずいぶん悩んだな」
「あー、あるある。あたしも同じ。オナネタはレイプ」
「誘拐されて監禁レイプされるところを想像するんですけど、ホントにレイプされるのはやっぱり危ないし怖いですよね。うふふ。想像するだけならいいけど、実際に犯されるとなると、そんなの絶対イヤっていうか」
「まあね。実際ヤラれてみると、そんなにいいものじゃないですよ。あたしは強姦されたことが何度もあるから。初体験も強姦だったしね」
「ご、ごめんなさい。わたし、無神経なことを……。つらかったでしょうね」
穂波さんが表情を曇らせたので、あたしは微笑んだ。
「気にしないで。いまは援助交際を楽しんでるし、セックスするのは大好き」
そう言われて、穂波さんはまた笑顔になった。
「わたしも援助交際は楽しい。知らない男性とホテルの一室でふたりっきりになって、距離がゼロになっていくのは、とても刺激的で不思議な体験だと思う。気持ちよくしてもらえたとき、出会ったばかりで名前も知らないのに、心が通い合うのを感じるの」
「あたしも同じ。変に思うかもしれないけど、あたしが援助交際をするのは恋をしたいから。抱かれてるあいだ、あたしは相手の人に恋をしてる」
「変だなんて思わないよ。ステキじゃないですか」
「でも、たぶん純粋にお金が欲しくて援助交際してる子たちの方が、健全なんだと思うけど。お金目的の援交なら、誰にだって理解できるじゃないですか」
「そうね。世間一般から見ればそうなのかもしれない。けれど、服を買うお金のために内心キモチ悪いと思ってるおじさんを相手に二時間だけガマンしていればいい、なんて考え方はわたしには理解できないな。わたしは男の人に抱かれるのが好きだし、もっともっと気持ちいいことしたい。女の子に生まれたのだもの、女の子としてのセックスを堪能しつくしたい。やり切りたいです」
この子は援助交際をしてることにすこしも後ろめたさを感じてない。ただ、世間とは相容れないと思ってるだけなんだ。
もしもあたしがお父さんの本当の娘で、性的虐待も性的いじめも受けていなくて、集団強姦されてビデオを撮られたりしていなかったら――。拓ちゃんの彼女になる一方で、穂波さんのように健康的に援助交際を楽しんでいたのかもしれない。
きっと穂波さんは、あたしがなりたかったあたしなんだ。だから穂波さんのことがこんなに気になるんだ。
ともだちになりたい――。
「ねえ、穂波さん。あの塾に通う男の子で、あなたのことが好きだっていう人がいるんですけど。もし、告白とかされたらどうする?」
穂波さんは目を丸くしたあと、人差し指をあごにあてて考えこんだ。
「わたし、同世代の男の子にはぜんぜん興味ないんだよね。友達ならいいけど、恋人となるとちょっと……」
「そっか。よかった」
「それに、わたし、いいなずけがいるんだ」
「いいなずけ!? 婚約者?」
「もちろん親同士が決めたことで、実際に結婚するかどうかはわからないけど、わたしもその人のことは気に入っているんだ」
さすがお嬢さまだ。
あたしは穂波さんの方に向き直った。緊張で口の中が乾くのを感じた。
「また……、あの……、また穂波さんに会いに来てもいいですか?」
「もちろんよ! 友達になりたい」
穂波さんは踊りだしそうな勢いで答えた。
「それではあらためて――」
と、あたしは咳払いをして姿勢をただすと、穂波さんを正面から見た。
「美星沙希です。あたしの友達になってくれませんか?」
「穂波梨沙です。わたしのお友達になってください」
それからあたしたちは吹き出して、ふたりで大笑いした。
その日、別れるまでに、あたしたちは「沙希」「梨沙」と呼び合うようになった。
援助交際のことを話せる友達。
うれしい。これ以上ないくらいに。
[援交ダイアリー]
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