もなかさんはしばらく黙ってあずきさんを見つめた。あずきさんが何を考えているのか、真意を推し量ろうとしているんだろうけど、たぶん、あずきさんはただ面白がっているだけだ。
もなかさんは目を伏せてため息をつくと、またあずきさんに視線を戻し、
「あたしは入学式より、卒業式をやりたいわ」
初めて耳にするもなかさんの素のしゃべりにドキリとした。やっぱり告白の返事をするつもりなんだ。
「なんだよ、もなか。急に真面目な顔して……って、あんたはいつも真面目か」
あずきさんも何か察したらしく、表情がこわばっている。
互いの呼吸のリズムが重なるのを待つように、ふたりはしばらく向かい合ったまま黙っていた。
このままここにいていいのだろうかと思ったけど、口を出せる雰囲気じゃないし、わたしが口出しするべきことでもない。自分が息を止めていることに気づいて、音を立てないようにゆっくり息を吐き出した。
「卒業式か……」
あずきさんが口を開いた。ずっと見つめられていることに照れたように、頭をかいている。
それから真顔になると、もなかさんをまっすぐに見つめて、
「あなたとはずっと友達のままでもいいと思ってた。こんなことを言ったら困らせてしまうかもしれないけど。でも、やっぱり伝えたい。栗原もなかさん、あなたのことが好きです。卒業でお別れにしたくない。あなたとこれからも一緒にいたいです」
あずきさんは頭を下げて、
「だから、あたしと結婚を前提に付き合ってください」
そっか。これって、二年前の卒業式の再現なんだ。
もなかさんに目をやると、苦しそうな表情でじっとあずきさんを見ていた。
二年前、もなかさんは告白されても返事ができずに逃げてしまったと言っていた。今度は返事をするつもりなんだ。
そこで、ハッと思った。もなかさんの『卒業式をやりたい』というセリフだけで、あずきさんはもなかさんが何を考えているのかわかったってことは、つまり、ふたりの気持ちはそれほど通じ合っているんだ。
もなかさんがOKしてくれればいいのに。
もなかさんだって、あずきさんのことが好きなはずなのに。
「ごめんなさい」
もなかさんが声を搾り出すように言った。いまにも泣き出すんじゃないかと思われた。
あずきさんが体を起こして、大きく息を吐き出すと、また頭をかいた。
「ありがと。こんどは答えてくれたね」
「あずき……、あたしはあなたのこと……」
あずきさんはもなかさんを元気づけようとするかのように笑顔を見せた。
「いいんだ、フラれるのは慣れてるさ。ねえ、もなか、これからも友達でいてくれる?」
もなかさんは唇をワナワナと震わせて、必死になにかを言おうとした。でも、何も言えないまま、ただうなずくと、くるっと向きを変えて走りだした。呼び止める間もなく、坂を登っていってしまい、見えなくなった。
あずきさんとふたりで残されてしまい、どうしようかと思ってそっとあずきさんの顔を盗み見た。あずきさんはもなかさんの姿が消え去ったほうを見つめていた。わたしの視線に気づいたあずきさんが、わたしを見下ろした。
「またフラれちゃった」
あずきさんが苦笑して、わたしの首に腕を回して抱きよせた。
「莉子ちゃん、告白がうまくいく秘訣があるんだけど、知ってる? それはね、両想いになってから告白すること。そうすれば返事はOKに決まってるでしょ」
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