AVのスカウトだ。スカウトされるのは初めてじゃない。一年前、渋谷でAVスカウトだという男に声をかけられた。わたしはその男にだまされて初体験をしてしまったのだ。いくら後悔しても足りない。
「いまの仕事をつづけながら、アルバイト感覚でビデオに出ることもできるよ。そういう子もたくさんいるんだ。あ、家族や知り合いにバレないか心配? 大丈夫、メイクでわからないようにするし、顔を出さないってこともできる。まあ、ちょっとギャラは少なくなっちゃうけど。どう? お金稼ぎたくない?」
「わたし、お金で体を売るようなことはしたくありません! それに、こういう場所でスカウトするのって、違法ですよ」
わたしが立ち去ろうとすると、男性はわたしの前に立ちふさがった。
「ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだ。あやまるよ。ほんとごめん」
なんとなく本気で謝罪しているように思えて、うさんくさいとは思ったけど、足を止めてしまった。
「はじめから言い直すよ。ぼくはアダルトビデオのプロダクションを経営しています。きみはとても美しくてセクシーだ。その美貌を活かしてアダルトビデオで活躍してみませんか。きみがかがやける場所を提供してあげられる。かがやけるよう、ぼくにお手伝いをさせてほしいんだ」
男性から名刺を渡された。佐藤さんという名前だった。
「そうやって女の子をだまして、契約で縛ってビデオに出させるんですよね」
「うーん、そんなふうに思われてしまうのはしかたないね。実際、悪徳プロダクションもあるし。でも、うちは違うよ。女優さんたちはみんな誇りを持って仕事をしている。きみはしっかりした考え方をする人のようだから、ちゃんと話を聞いてもらえればわかってくれると思う。むしろ、小遣い稼ぎだけが目的の不真面目な子だったら、ぼくは来て欲しくない。スタッフにも迷惑がかかるしね。きみはそうじゃないと思う。もし、きみがいいかげんな人間だというなら、そう言ってください。ここでさよならだ」
佐藤さんはわたしに考えさせるように間をおいた。
「どんな話ですか?」
「よかった。わかってくれると信じてたよ。じゃあ、落ち着ける場所に行こうか」
佐藤さんにうながされて歩き出した。決してスカウトの話術にだまされたわけじゃない。ただ、佐藤さんが言った『かがやける場所』という言葉が気になったのだ。いまのわたしは――、いや、いままでのわたしはかがやいたことなんてなかった。
メガネを使えばいつでも逃げられる。話を聞くくらいなら……。
「あ、そうだ。彼氏はいるの? 男性経験はあるんだよね。ビデオでバージンを捨てる子もいないわけじゃないけど」
「経験はあります」
ぼそりと答えた。彼氏はいない。いたこともない。男性経験は三人だ。
うつむいて唇を噛んだ。
一年前、渋谷でアダルトビデオにスカウトされた。ホストふうの若い男だった。しつこく付きまとわれて、しかたなく食事を共にしてしまった。そのあと強引にホテルに連れていかれた。カメラテストで女優としての体を見るだけだからと言われた。わたしも断りきれず、下着姿になるだけだと自分を納得させた。
あとになって考えてみれば当然のことだけど、それだけですむはずがなかった。ホテルにはほかにふたりの男がいた。初めてなんだとわかると、もう許してもらえなかった。ホテルには五時間くらいいたと思う。三人の男とかわるがわるセックスした。うしろから挿入されながら別の男のアレを咥えさせられたりもした。避妊はしてくれず、何度も中に出された。その一部始終をビデオに撮られた。
気持ちよかったのは確かだ。初めてだったけど気持ちよかった。解放されるとき、三万円を渡された。あれがレイプだったとは思いたくない。わたしはだまされたのかもしれないけど、女優の仕事をしたんだ。
[目立たない女]
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