第3話 校内美少女ランキング (01)

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朝、学校へ行く途中でうしろから声をかけられた。首だけをまわして振り向くと、同じ高校の二年生でいとこの拓ちゃんが駆け寄ってくるところだった。

「おはよう、沙希。ずいぶん荷物が多いな。貸せよ、持ってやるから」

あたしは通学バッグを肩にかけ、両手におおきな紙の手提げ袋を四つ持っていた。中身は服なので重くはないけど、かさばるせいで、よたよたとした足取りだった。

「おはよ、拓ちゃん」

拓ちゃんがぜんぶの袋を持とうとするので、三つを渡した。四つとも持ってもらったのでは召使いのように見えるし、半分ずつ持ったのでは拓ちゃんのカッコがつかない。

「あさってからの文化祭の荷物かい? この衣装はメイド喫茶だね。校内ランク八位の沙希がメイドをやるなら、さぞ似合うだろうな。俺も行ってやるよ」

「それはアリスの衣装だよ。不思議の国のアリス」

「喫茶店だって言ってたような気がするけど、劇をやるのか?」

「喫茶店だってば。マッド・ティーパーティー。アリスのお茶会」

手提げ袋の中身はアリスのエプロンドレス四着だった。あたしは当日のアリス役のひとりに選ばれていたけど、家にミシンがあるって言ったら、縫製も頼まれてしまった。裁縫が得意なのは知られていたし、学校のミシンはほかのクラスや部活の子も使うからね。

「そんなことより、いま拓ちゃん、変なこと言ったよ。あたしが校内ランク八位ってなんのこと?」

拓ちゃんは得意げな顔になった。

「校内美少女ランキングのネット投票だよ。今朝見たら沙希が八位になってた」

な・ん・だ、そりゃ!?

あたしが言葉を失っているのを見て、拓ちゃんがおもしろそうに笑った。

「怒るなよ。八位なんてすげーじゃん。四百人以上いる晴嵐の女子生徒の中でトップテンに入ってるんだからさ。上位にいるのはモデルやってるような子たちだぜ。俺も、四月に久しぶりに再会した沙希があんまり美人になってたもんだがら、驚いたクチだけどな。お前の可愛さは世間も認めたってことだ」

「いや、そーじゃなくて……」

女子に人気のハンサムな男子に、美人で可愛い、などと言われて、さすがに照れてしまった。それで別に腹を立てていたわけじゃないけど、ちょっと怒ったふりをして見せた。

「その……、そんなものにエントリーした覚えはないんだけど」

「他薦だろ? ちょっと待って。いま見せてやるから」

拓ちゃんは手提げ袋の取っ手を手首に引っ掛けると、ポケットからスマートフォンを取り出した。ブラウザを起動して問題のサイトにアクセスする。パスワードを入力すると、『文化祭特別企画 校内美少女ランキング』というタイトルのページが表示された。

順位付けされた女子の名前と得票数、それに投票ボタンが並んでいる。

「これだ。文化祭の実行委員会が運営しているわけでもなさそうだけどな。きのう同じ部活の奴に教えてもらったんだよ」

「これって学校裏サイトじゃないの? ちょっと貸して」

あたしは拓ちゃんからスマホを受け取った。

一位にランキングされているのは一年D組の小川美菜子さんだ。ファッション雑誌でモデルをやっているほどの美少女で、男女ともに人気がある。あたしもファンだ。

二位は二年生の真木瑠璃先輩。小川さんと同じくモデルをやっていて、ふたりは良きライバルという感じらしい。おっとりした小川さんと違って、ちょっぴりきつい性格だと思う。しかしそんなところが女子には人気なのだ。

三位は生徒会長の岡野恵梨香先輩だ。ストレートロングの黒髪が似合うスレンダーな美人。たしか拓ちゃんと同じクラスだ。ファンクラブがあると聞いたこともある。

このあたりはいずれ劣らぬ超絶美少女たちで、可愛い子が多いと言われる晴嵐高校の中でも別格と言っていい。内面からにじみ出るオーラというかカリスマ性というか、単に容姿がいいだけではない、人物トータルとしての魅力があるのだ。

そうした美少女たちに混じって、上から八つ目に『美星沙希』とあった。

正直なところ、ちょっと驚いた。美人だという自覚はある。ただ、あたしは友達はほとんどいないし、学校では目立たない方だと思ってたんだ。

自分の名前をタップしてみると、新しいページに切り替わった。

「なによ、これ」

思わず声をあげてしまった。そこにはあたしの個人情報がずらずらと列記されていた。

名前:美星沙希(みほし さき)

属性:ミステリアスなクールビューティー

クラス:一年F組

誕生日:三月二十七日

血液型:O型

ブラのサイズ:B

彼氏:あり(二年A組の鳴海拓也)

「おい、ちょっと待て」

二年A組の鳴海拓也って、これは拓ちゃんのことだ。

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