帰りの車の中で、わたしはユキさんとのやりとりについて、お父さんに話した。
ユキさんがお父さんにレイプされてもてあそばれた末にゴミのように捨てられたのだと言い張っていることも含めてだ。
話を聞き終えると、お父さんは大きくため息をついて、片手で目を覆った。
「ぜんぶ本当のことだ」
と、お父さんがつぶやいた。
「でも、お父さんとユキさんは恋人同士で、セックスしたのもお互い合意の上のことだったんでしょ?」
「ユキちゃんはまだ小学生だったんだ。合意のセックスなんてありえない」
「でも……」
「ユキちゃんの家庭教師をしていたんだ。会うたびに彼女を抱いた。いま考えるとぼくはおかしくなっていたんだと思う」
「でも、ユキさんのことが好きだったんですよね?」
「ぼくが好きだったのはきみだ」
姪だと思っていたわたしの代わりに、同じ年頃の女の子と関係を持つようになったのだ。最初は家庭教師をしていた子だと、このあいだ言っていた。それがユキさんなのだろう。
お父さんはがっくりとうなだれて、かぶりを振った。
「いや、そうじゃない。ぼくが好きだったのはきみのお母さんだ。那由多さんのことが好きだったのに、身代わりに莉子ちゃんを求め、それがかなわないとなると、別の子に欲望をぶつけてしまった。ユキちゃんはぼくを慕ってくれていたのに、ぼくはその気持ちにつけこんで体を奪ったんだ。たしかに、嫌がるユキちゃんをむりやりレイプしたわけじゃない。でも、ユキちゃんの心と体をもてあそんだのは事実だ」
「……」
「母はずいぶん高額の示談金を払ったらしい。結局、ぼくはユキちゃんの体をお金で買ったようなものだ。関係がバレて別れることになったときも、ユキちゃんは最後までぼくのことをかばってくれていた。恋人同士なんだと言ってくれた。ぼくは何も言えなかった。だって、ぼくはユキちゃんの体が欲しかっただけなんだから」
「最低だわ」
思わず口をついて出てしまった。だけど、ユキさんが怒るのも当たり前だ。体が目当てだったなんて、女の子にとってこれ以上傷つく言葉はない。
「そのとおりだ。ぼくは最低最悪の人間だ。それ以来、ユキちゃんには会っていなかった。ぼくのことは忘れて、普通に暮らしているものとばかり思っていた。いまもユキちゃんはあんなにも傷ついていた。そんなこと思いもしなかった。人生をめちゃくちゃにされたと言っていた。ぼくのせいだ。それなのに、こんどは莉子ちゃんだ。よりによって自分の娘であるきみを抱いてしまった」
「わたしは後悔してないわ。初めての相手がお父さんでよかったって思ってる。わたしとお父さんの場合は、確かに合意の上でのセックスよ」
「莉子ちゃんはまだ十四歳じゃないか。犯罪だよ。おまけに親子なんだ。こんなことは許されない。いまの関係を続けるべきじゃないよ。叔父と姪の関係に戻ろう。やっぱり、ぼくにはあのラブドールたちがお似合いだ」
ため息が出た。
ユキさんと再会したせいで、お父さんは取り乱している。落ち着くのを待ったほうがよさそうだ。
それ以上の会話を交わすことがないまま海辺の別荘に戻った。お父さんは自分の寝室に引きこもってしまい。晩ごはんも食べようとしなかった。
お風呂のあとで、自分に割り当てられた部屋にもどり、ベッドに突っ伏した。
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