とうとうセックスしちゃった。
どきどきが醒めやらぬまま家に帰った。なぜか晩ごはんはお赤飯だった。ひょっとしてママにはバレてるのかな。
どちらにしても、ママとは一度ちゃんと話をしなくちゃいけない。
「ねえ、ママ。きょうはお風呂、一緒に入ろうよ」
「いいわよ、莉子。何か相談したいことがあるのね」
ママは待ってましたとばかりに顔をほころばせた。
ママに悩み事を相談するときは、お風呂で話すことが多かった。だから、すぐピンと来たらしい。栄寿さんとの初体験についての相談だと思ったんだろう。
わたしの家のお風呂は天然温泉で、バタ足の練習ができるくらいに湯船が大きく、二十四時間いつでも入れる。二段になった大理石の縁に座って半身浴をしながら、ママといろんなおしゃべりをするのが好きだ。
お風呂に入ってひとしきりリラックスしたあと、上半身を湯船から出して、ふたりで並んで座った。
「栄寿さんが初めてセックスした相手って、ママだったんだって?」
そう尋ねると、ママはちょっとだけ驚いたような顔をした。
わたしの相談事がママ自身のことについてだとは思ってなかったみたい。
「ママの性体験はいろいろ聞かされてきたけど、栄寿さんとセックスしてたなんて話してくれなかったじゃない。夏目おじさんとふたまたかけてたの?」
別に責めてるわけじゃない。女の子同士で恋の話をするときのような調子で言った。
ママは「うーん」と唸って、
「そうなるかな。あの頃、久遠(くおん)ちゃんは高校二年生で、ママのセックスフレンドだった。久遠ちゃんもママが初めての女だったのよ。弟の栄寿さんは小学六年生だったわね」
ママも女学生に戻ったような口調で、
「あの頃から栄寿さんはかわいい子でね。精通前の男の子とセックスしてみたいなって、思っちゃったのよね。いけないことだとは思ってたんだけど、誘惑しちゃった」
わたしはちょっとムッとした。
「栄寿さんは、いまでもそのことで苦しんでるんだよ。ママは知らないの?」
ママは真顔になって、
「知ってるわよ。もなかちゃんとあずきちゃんのことも知ってるわ。あのふたりがどんな役目を負わされてるかもね」
もなかさんとあずきさんは、栄寿さんとセックスするためにメイドとして雇われているんだ。ふたりともバージンだと言っていた。事情があるのかもしれないけど、大切な初体験をお金で売るようなことは間違ってると思う。
「栄寿さんが大人の女性とセックスできなくなったのは、ママとの関係が原因じゃないかと思うのだけど。それについてママの意見を聞きたいわ」
セックスは自由だというママの生き方には賛成してる。でも、自分のセックスが原因で誰かが傷つくのは嫌だ。ママだってそうなんじゃないのかな。
「栄寿さんを傷つけたことについては反省してる。若さゆえの過ちだわ。ママだって苦しんだし、多くを学んだのよ。でも、全体としては間違ってなかったと思う」
「栄寿さんとのセックスでわたしを身ごもったことを言ってるの?」
ママはわたしのほうに向き直って、
「莉子、あなたにはときどき驚かされるわ。いつから気づいていたの?」
ママが心底びっくりしている様子なので、わたしも「ちょっと鎌をかけてみただけ」とは言えなくなってしまった。
というか、そんなにあっさり認めるとは思ってなかった。
「栄寿さんがわたしの本当の父親なのね」
しばらく考えこんだあと、ママは観念したようにため息をついた。
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