第12話 エンジェルフォール (01)

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 晴嵐高校の中庭のあちこちには木製だったり石造りだったりのテーブルやベンチが置かれている。ランチタイムにはそこでお弁当を広げる生徒も多い。金曜日の昼休み、あたしは美菜子ちゃんと中庭の隅の木陰にあるテーブルでお昼を食べていた。

「やっぱ、あのふたりが一緒にいると絵になるよね」

 などという声が遠くから聞こえてくる。

 美菜子ちゃんは校内で一番の美少女だし、こういっては何だけどあたしもかなりの美少女だ。なので、談笑するあたしたちの可憐さに眼福を得る生徒たちがいても、それほど驚くことじゃない。

 だけど、あたしたちが話してるのは援助交際についてだった。

「あー、ダメだ。やっぱり『魔法の掲示板』が閉鎖になってる」

 あたしはそう言ってスマホをテーブルの上に放り出した。

「沙希ちゃんがいつも使ってるとこよね?」

「あしながおじさんみたいなステキな紳士と出会える場所だったんだけどな。このところ援デリの業者に荒らされ放題だったから、ほとんど使えなくなってたけど。とうとう閉鎖かぁ。これからどうやってお客さんを探そうかな」

 梨沙も使ってたはずだけど、あの子はどうするつもりだろう。こんど訊いてみるか。

「わたしもそろそろ本格的に援助交際をしてみたくて、いろいろ調べてるんですけど。このあいだSNSに書き込んだら、大量のメッセージが来てしまって、どうしたらいいかわからなくなりました」

「うーん、SNSはお勧めできないかな。貧乏なヤリモクがうじゃうじゃいるから。料金を払わずにヤリ逃げする男も多いよ。それに、警察も張り込みしてるし、システム側の規制もきびしいしね」

「そうですか。警察は困ります。あのときは沙希ちゃんが助けてくれましたけど、補導には気をつけないとですね。来週の木曜からゴールデンウィークだから、連休中に一条さん以外の男の人と初めての援交をしたいんですけど」

 美菜子ちゃんは以前、あせって援交しようとして、おとり捜査の刑事に捕まりそうになったことがある。それ以来、自重して一条さんとだけ援交してる。

「一条さんは美菜子ちゃんばっかり指名するよね。もしかして美菜子ちゃんのことが好きなんじゃないかな。無理にほかの人と援交しなくてもいいと思うけど。このまま一条さんの彼女になるっていうのもアリなんじゃない?」

「一条さんは確かにいい人ですし、いろいろ感謝しています。けど、やっぱりほかの男性とも援交したいです。沙希ちゃんみたいに」

 あたしは苦笑した。

「まあ、一条さんのセックスのテクはなかなかだけど、世の中にはもっとうまい人はいっぱいいるからね。一条さんのアレって、硬さは十分だけどカリの高さは今ひとつじゃん。仮性包茎だし」

「カリって、あの……、アレのコレですよね」

 と、美菜子ちゃんが手で亀頭の形をつくりながら言った。

「そうそう。あそこがグッと広がってると気持ちいいんだ。おちんちんの形って、けっこう人によって違うから面白いよ」

「やっぱりアレが大きい方がいいですか? わたしのお父さんは一条さんのより小振りだったんですけど」

「大きすぎても痛いだけだって言うから、大きければいいというものじゃないよ。あたしはそこまで大きい人には出会ったことないけど。大事なのは硬さと持続力だと思うな。太さは自分のアソコとの相性があるし、ある程度の長さは必要だけど長すぎてもダメ。あと、やっぱりカリね」

 さすがに美菜子ちゃんがほっぺたを赤くした。

「美菜子ちゃんは援交するならどういうタイプがいい?」

「タ、タイプって、おちんちんの……?」

「じゃなくて、男性のタイプ」

「アハハ……。そ、そっちね。うーん、やさしいお兄さんタイプがいいかな。一条さんみたいな」

「そっか。じゃあ、二十代か三十代の人かな。あたしが好きなのは強引だけどやさしいおじさまだなぁ。二十代はやさしい人が多いけど、セックスがあんまりうまくない。三十代で遊びなれてる人はいいよ。体力あるし。四十代は意外と悩んでる人が多くて、あたしたちみたいな子と相性いいんだ。五十代の人はピロートークが面白い。ジェネレーションギャップ通り越して異世界ファンタジーだよ。中年のおじさまってけっこう精力ある人もいて、濃厚なセックスが癖になる」

「そうですね。おじさまともしてみたいです。いろいろ試してみたい」

「美菜子ちゃんは援助交際に何を求めているの? つまり、お金が欲しいとか、気持ちいいセックスをしたいとか、誰かにそばにいてほしいとか」

「わたしは沙希ちゃんみたいになりたいんです」

 即答した美菜子ちゃんが一瞬何を言っているのかわからなかった。

「あ、あたし!?」

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