あずきさんとふたりで、クリーニング店にメイド服の洗濯物を取りに行った。
いまのところ、もなかさんが告白の返事をした様子はない。恋人になるつもりがないなら、断ることがあずきさんを解放することだというのは、まあ、わかるんだけどね。
ビニールカバーに包まれたメイド服を抱えて、あずきさんたちの部屋に運んだ。ふたりが着ているメイド服は、縫製も素材もかなりの高級品で、デザインもぜんぶ違うオートクチュールだ。なんでも、高校時代のお友達がやっている専門店で仕立てたのだという。
メイド服のビニールカバーをはずし、ハンガーを厚みのあるものに付け替えた。クローゼットを開けると、そこに意外な服を見つけた。
パステルピンクのミニスカワンピースに、セーラーボレロ。わたしも同じ服を持っている。私立愛妻学園高校の春服。この春、わたしが入学する高校だ。
「あずきさん、この服は……?」
「高校のときの制服だよ。思い出がいっぱいつまってるからね、取ってあるんだ」
あずきさんは制服を手に取ると、普段はあまり見せない表情でしんみりと言った。
「わたしも、四月から愛妻の生徒になるんです」
「じゃあ、莉子ちゃんはあたしともなかの後輩になるんだね。なんか、すごい偶然」
たぶん、それほど偶然でもないんだろうな。愛妻のような学校に入るには学力も大事だけど、コネも必要だ。夏目おじさんはお金はあるけどコネはない。でも、親友だったパパに頼んでママの紹介をもらえれば別だ。
あずきさんは制服を体にあてて、姿見の前でポーズをとった。
「なつかしいなぁ。もう卒業してから二年もたつんだなぁ」
止まった時間、か。あずきさんの時間もやっぱり止まっているんだろうか。
「ねえねえ、莉子ちゃん。いまこの制服を着ても似合うかな?」
「うわー、見たい。あずきさんの制服姿、すっごく見てみたいです」
「そうだ。一緒に桜を見にいこう。海側の崖の下に桜の木があるんだけど、きょうあたりきっと見頃になってるよ。満開の桜で入学式ってのに憧れてたんだ。あたしのときは入学式はもう花が散ったあとだったし、卒業式はまだ咲いてなかったからね。そうと決まれば、莉子ちゃんも着替えよう」
あずきさんは返事も待たずに部屋を出ると、子供用のアンサンブルを手に戻ってきた。チェック柄のワンピースに、かわいいレース飾りをあしらった白い襟が付いている黒のボレロジャケット。小学生が入学式とかで着るようなキッズフォーマルだ。
正直ちょっとおもしろそうだと思ったので、あずきさんの提案に乗ることにした。
あずきさんが下着姿になった。白のスリーインワンだ。ガーターベルトで白のストッキングを吊っている。わたしの履いているニーハイと見た目は似ていても、雰囲気がぜんぜん違う。なんだかすごく大人っぽい。まあ、大人なわけだけど。
「なあに、莉子ちゃん?」
「い、いえ、別に。ただ、ガーターベルトってかっこいいな、って思って」
「うーむ、やっぱりこの制服にガーターストッキングじゃダメだよね」
そう言って、ストッキングを脱ぐと、ガーターストラップをぶらぶらさせておくわけにはいかないと思ったのか、背中のホックをはずしてスリーインワンも脱いだ。もなかさんと一緒で、やっぱり胸が大きい。
あずきさんは白のハイソックスを出してきて履くと、制服を着た。
「どう、莉子ちゃん?」
「高校生にしてはあずきさんのスタイルがよすぎて、ちょっと違和感ありますね。うっすらとお化粧もしてますし。でも、かっこいいです」
わたしもフォーマルウェアに着替えた。お父さんがわたしに見立てたラブドールに着せるために買ったものだ。デザインはお子様向けだけど、サイズはピッタリだった。
ふたりでポーズを取って見せっこしていると、もなかさんがやってきた。
コスプレごっこをしているわたしたちを見て呆れるかと思ったけど、もなかさんは何も言わない。あずきさんの制服姿をぼんやりと見つめて、心ここにあらずという表情だ。
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