あたしも自分のケータイで確認した。三位の岡野会長との差はわずかだ。
「あたしはあのサイトを潰したいんです。そのためなら順位が上がってもいいです」
ちやほやされるのは気分がいいと思ったのは認める。でも、援助交際をしている身としては、あまり目立ちすぎるのも迷惑だ。まかりまちがって校外で有名になったりしたらシャレにならない。だから、これは捨て身の作戦だ。
「よし、わかった。だったらわたしも協力しよう。しかし、美星さんにだけおとり役をさせるわけにはいかない。わたしもコスプレをしておとりになろう」
会長が決意を固めたような顔で言った。
「いえ、会長には盗撮犯を見つけて捕まえる役を――」
「それは風紀委員の男子生徒に頼むことにする。マキルリがきのう言っていただろう。わたしときみは似ているから美少女姉妹として売り出したらどうかと。ふたりでおとりになった方が敵も注目するはずだ。それに、わたしにも票が入るだろうから、美星さんだけがランクアップしなくて済む」
会長の提案にも一理ある。たしかにふたりでコスプレした方が目立つし、犯人もシャッターチャンスを逃すまいと躍起になるだろう。
「わかりました。でも、岡野会長もクラスの出し物でコスプレするんですか?」
「そそそ、そうではないが、生徒会のツテでどこかのクラスで借りられるだろう。バ、バニーガールとかッ」
会長は何を焦っているのか、冷静さを欠いている様子だ。バニーガールのコスプレなんて、申請してもほかならぬ生徒会に却下されるだろう。どうしちゃったのかな。
「無理にコスプレしなくてもいいと思うんですが」
「そうはいかんッ。とにかく一度生徒会室に戻って準備する。きみも来てくれ」
そう言って会長が返事も聞かずに大股で歩き出したので、しかたなく後についていった。
会長の横顔は、恥ずかしがっているようでもあり、強がっているようでもあった。意地になっているんだろうか。思いつめたような顔だ。
それで思った。たぶん会長はランキングの順位をあたしに抜かれたくないんだ。拓ちゃんのことが好きな会長は、拓ちゃんと恋仲だと噂されているあたしに、負けたくないんだ。拓ちゃんもあのサイトを見てるから。
あたしも今回の事件をそんなふうに考えることができればよかったのにな。
そんなことを思いながら二年生の教室の前を通っているとき、すぐそばでシャッター音がした。会長にも聞こえたらしい。
振り向くと、拓ちゃんがスマートフォンをかまえていた。あたしたちが睨んでいる顔が画面に映ったのか、拓ちゃんはバツが悪そうにスマホから顔をあげた。
「鳴海ィ、お前が管理人だったのかーッ」
会長が拓ちゃんに掴みかかろうとした。
いくらなんでもそれはない。混乱している会長の腕を引っ張って、
「落ち着いてください、岡野会長。拓ちゃんが犯人なわけありませんよ」
拓ちゃんも慌てて、
「おい、ちょっと待て、岡野。勝手に写真撮って悪かったよ。沙希のアリスがあんまり可愛かったから、つい撮っちまっただけだ。なんだか知らんが、俺は管理人でも犯人でもないぞ。たぶんな」
「なにが『つい』だ。美星さんはお前のいとこなんだろ!」
会長もわけのわからないことを口走ってる。
「沙希はいとこだが、お前の言ってることはわからん。落ち着いて、わけを話せ。俺にできることなら力になる」
「じゃあ、鳴海もいっしょに生徒会室に来い」
そう言って、会長は拓ちゃんの手を掴んだ。
思わず手を握ってしまったんだろうけど、急に意識しだして恥ずかしくなったのか、会長は真っ赤になった。一瞬、何か言いたげに口をモゴモゴさせたかと思うと、きびすを返して何も言わずに歩き出した。つないだ手は離そうとしない。いまさら恥ずかしくなって手を離すなんて、それこそ恥ずかしいと思ってるんだろう。
拓ちゃんは文句を言わずに会長に従った。
生徒会室には誰もおらず、会長はホッとしたように、拓ちゃんの手を離した。
「す、すまない、鳴海」
「いいさ。で? 何に困ってるのか言ってみろよ」
「あ、ああ」
拓ちゃんが優しく微笑むので岡野会長は返って言葉に詰まってしまったらしく、もじもじするばかりだ。
それで、あたしが代わって、きのうからのいきさつを説明した。
盗撮写真をアップされて迷惑してるってことから、写真が撮られた文化部の部室棟へ行って聞き込み調査をしたこと、写真部、文芸部、コンピューター部、書道部それぞれでのやりとりの内容、けれど手がかりがなくて、おとり捜査を敢行しようと考えていたってことまで、順を追って話した。
[援交ダイアリー]
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