やさしい口調で言われたんだけど、全身にビクッと緊張が走った。つないだ手から田辺さんにもそれが伝わった。田辺さんはあわてて、
「あ、もちろんふりだけだ。いたいけな女子高生をむりやりレイプする。実際には不可能なことだが、この機会に体験してみたいんだ。いいだろ?」
「やさしくしてほしい、って言ったじゃないですか。変態プレイはイヤですよ」
「乱暴なことはしないって。嫌がるふりをしてほしいのさ。ただの遊びだよ」
鼓動が速くなった。手足が冷たくなるのを感じた。
イケメンさんだからって本番に誘ったことを後悔した。
その一方で、あたしはレイプされることへの期待に胸が高鳴るのを感じてしまった。
変な話だけど、あたしはレイプにハマっていたことがある。
お父さんに捨てられ、お母さんにお金で雇われた男たちから強姦されたあと、あたしは精神的にかなりやばい状態になっていた。どのくらいやばい状態かというと、当時のあたしにはお化けが見えていたくらいだ。
部屋に閉じこもって、ネットのレイプ体験談を読みあさり、レイプされるところを想像しながらオナニーにふけった。
お母さんはそんなあたしを親戚にあずけた。都会を離れて静養した方がいいと言われたんだけど、たぶんお母さんはあたしがそばにいるのがイヤだったんだと思う。
知らない町で中学生になったあたしを待っていたのは性的いじめだった。先生は助けてくれなかった。いじめはエスカレートして、最後には上級生から輪姦された。あたしはおかしくなってしまい、学校にも行けなくなった。
結局、あたしはお母さんのところへ戻った。ほかに行くところはなかった。
それからのあたしは、ビッチな服を着て派手なメイクで街を歩くようになった。
強姦されたくてたまらなかった。もちろんそんなのはイヤだったし、そんなことを望んでしまう自分がイヤだった。二律背反の気持ちに引き裂かれて、危険な状況に自分から入り込んでいってしまう。どうにもできなかった。
声をかけられたときは必死に逃げたけど、捕まって犯されたこともある。どんなに抵抗しても女の子の力じゃ太刀打ちできない。でも、恐怖と絶望の中ですべてをあきらめ、無力で無価値な自分を受け入れたとき、ふしぎなほど心が落ち着いた。
あの頃のあたしは壊れていた。
だけど、いまは乗り越えた。援助交際があたしを救ってくれた。援助交際で出会った人たちがあたしを受け止めてくれた。あたしは生き延びたんだ。
「俺は沙希をメチャクチャに穢したい」
拒否したい。なのに、誘蛾灯に魅せられた虫のようにあらがえない。
自分から強姦されに行くのはあたしが変態だからじゃない、なんとかしてトラウマを克服しようとする心の防衛反応なんだと、お医者さんは言ってた。
あたしは過去を克服したはずだ。だから、いまレイプされたいと思っているのは、レイプファンタジーを楽しめるまでに回復したんだってことに違いない。
田辺さんの要望を受け入れて、もう大丈夫なんだと自分に証明しなくてはならない。
そうしなければ、きっと本当には迷路を抜け出せないんだ。
「わかりました。でも、コンドームはつけてくださいね」
「避妊はちゃんとするよ」
バージンの女子高生が生徒指導室で教師にレイプされる、という設定だ。
あたしは抵抗する演技をするけど、もし本当に耐えられない状態になったら『バナナ』と叫ぶよう言われた。『バナナ』と言わなければ、どんなに嫌がってもそれは演技だということになる。
あたしはベッドに腰掛けたまま両手で顔をおおった。
怖い。
体が固くなってる。演技なんてしなくても震えている。
大丈夫、立ち向かえる。もう、あの頃の無力な子供じゃない。
ゆっくりと両手を下ろした。それがスタートの合図だった。
「沙希、お前が男子生徒を相手に売春をしているという噂があるが、本当か? もちろん先生はお前がそんなことするはずないと信じているが」
田辺さんが演技を始めた。
けれど、あたしにとっては演技どころじゃなかった。田辺さんが言ったのとそっくり同じセリフを、中学のときの生徒指導の教師から言われたことがあるんだ。
いきなり思い出したくない過去に飲み込まれた。
「う、うそです。あたし、売春なんてしてません」
田辺さんはあたしの肩を抱いて、太ももに触ってきた。あたしは体を縮こまらせた。
「本当に処女かどうか、お前の体を調べる必要があるな。いいか、これは生徒指導のための検査だからな。服を脱いで裸になりなさい」
「そんな……。いやです」
「検査を拒否すると売春を認めたことになるぞ。退学になってもいいのか」
セーラー服の上から胸を鷲掴みにされた。あたしは身をよじって逃れようとしたけど、肩を押さえられていて逃げられない。そのまま胸を揉みまわされた。
[援交ダイアリー]
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