昼休みになると、お昼を食べに友達と連れ立って屋上にやってくる生徒も何人かいた。あたしは何も食べる気になれず、屋上の隅でひたすら待ち続けた。
メールの着信音が鳴ったのは、一時間ほどもしたときだ。
メールの内容はこうだった。
『あなたが援助交際をしていることを学校に言うつもりはありませんでした。私はただ三次元女なんてみんなビッチだと鳴海君に知ってほしかっただけです。写真はたったいま野球部の生徒に持ち去られました。今頃は部室でオナニーしていることでしょう。悪いのは恋人がいるのに援助交際をしている美星さんです。自業自得です』
学校に言うつもりはなかった? 三次元女なんてみんなビッチ?
三回読み返して、ようやく意味がわかってきた。事件の真相はあたしが思っていたのとはまったく違うものだったんだ。ということは――。
突然、体中に電気が走ったように感じた。あたしは弾かれたように駆け出した。階段を駆け下り、何人かの生徒を突き飛ばしながら廊下を全力疾走し、上履きのまま校舎を飛び出した。運動部の部室棟はグラウンドの隅にある。写真が持ち去られてからまだ十分と経っていないはずだ。
野球部の部室の前にたどり着くと、息を切らせたまま勢いよく戸を開けた。
薄暗い部室の中にふたりの男子生徒がいた。ふたりともパイプ椅子に腰掛け、ズボンとパンツを膝までずり下ろしていた。片手を股間に伸ばし、もう一方の手にはA4の紙の束を持っている。男子生徒はあたしに驚いて悲鳴をあげた。あわてて股間を隠そうとしてバランスを崩し、椅子から転げ落ちた。
あたしも悲鳴をあげて男子生徒に飛びかかった。もう何も考えられなかった。
「写真を返して!」
男子生徒が写真を落とした。写真は床に散らばった。
自分でも意味の分からないことをわめきながら、ひざまずいて写真を拾い集めた。どの写真にもあたしが写っていた。そのうちの一枚が目に飛び込んできた。あたしは叫び声をあげた。こんなことをされたことはない。多重人格だ。間違いない。
そこに写っているのは、赤いロープで亀甲縛りにされ両脚をおおきく開かされたあたしだった。剥ぎ取られたセーラー服を脇に、黒のニーハイだけを履いていた。三人の全裸の男に囲まれ、股間とお尻に二本のバイブレーターを突っ込まれている。
意識が遠のく。手足が冷たい。体がしびれてきた。息ができない。
ほこりっぽい空気に混じる動物じみた臭いが鼻をついた。汗の染みこんだグローブの臭いだ。目が回るのを感じた。金属バットがボールを打つ音が耳の中でこだまする。
野球部の部室……!
よろよろと出口に後ずさろうとする。そのとたん部室の戸が閉じられた。明かり取りのちいさな窓から入るわずかな光の中に、五、六人の人影が浮かび上がった。
涙が頬を伝って流れた。もう逃げられない。
何人もの男子生徒がつかみかかってきた。
手足をじたばたさせて抵抗すると、強い力で押さえつけられた。
「いやだぁぁっ! やめて! 離してったらッ!」
どんなに懇願しても許してもらえないことを知っている。
泣き叫ぶことしかできない。
力ではかなわない。
犯される。
「助けて……、誰か……。こんなのやだ。こんなのやだよぉ」
スカートの中に手を入れられ、パンツをずり降ろされた。
服を破られブラジャーをはずされて、乱暴に乳房を揉みしだかれた。
アソコに指を入れられ、かき回された。
「あたし、好きな人がいるのに……」
何でも言うこと聞きますから。
誰にも言わないから。
だからもうこれ以上、犯さないでください。
もう全員ヤッたじゃないですか。
もう十分でしょ?
もう家に返してください。
『沙希! 沙希!』
恵梨香先輩……?
あたしは生ゴミなんです。
生きている価値なんてないんです。
野球部の人たちがあたしを部室に閉じ込めて、かわるがわる強姦したんです。
いやだって言ったのに、やめてくれなくて。
叩かれて、ビデオを撮られて、笑われたんです。
もう生きていたくない。
死にたい。
死にたいです。
[援交ダイアリー]
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