第15話 ロンリーガールによろしく (05)

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 週末の天気予報を確認する。関東南部は金曜まで弱い雨が降り続くけど、土曜は晴れるだろうという。一方、向こうは土曜の午後から天気が崩れ、一時強く降る可能性もあるという予想で、日曜には記録的短時間大雨情報が出る恐れもあると注意が呼びかけられていた。ということは、土曜の朝出発して夕方までに戻ってくれば問題ない。

 予報どおり、土曜は久しぶりに晴れ間が出た。あたしはベージュのパンツにカーキのサファリジャケットで大人っぽくした。もうあの頃のおびえた少女じゃない。

 東京駅から新幹線に乗った。座席はすいていて、窓際の指定席を取れた。あたしは窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、自分の脚がなくなっていることに気づいたときの新垣の気持ちに思いを馳せた。

 ひとつだけ気に入らないことがある。橋田さんの手紙には、クラスメートが集まって新垣を支援するための相談会をやると書かれていた。どうしてあんな子のためにそこまでしようと思えるのか。あたしが何をされていたかみんな知ってるのに。事故にあったのがあたしだったとしたら、あのクラスの奴らはどんな反応を示しただろう。いい気味だと笑ったに違いない。あたしは嫌われていた。イジメだと思われてなかったのかもしれない。だから、橋田さんも仲直りのチャンスだなんて言い出すんだ。まるでわかってない。誰もわかってはくれない。

 重傷を負った新垣は一生起き上がることもできないのだということが、こんなにも嬉しい。これからあいつを嘲笑ってやるのだと思うとワクワクする。こんなふうに思うあたしはたぶん人でなしなんだろう。新垣はみんなから同情され、助けてもらえる。あたしは違う。それが悔しかった。せめて動けない新垣の顔に落書きでもして嘲笑ってやらなけりゃ気がすまない。

 新垣がどうしてあそこまでしたのか、ほんとのところはわからない。自分が片想いしてる長沢くんがあたしを好きになったからっていうのはただのきっかけだ。イジメをする人の理由は、イジメを通じて自分の方が上だと確認したいのだと思う。権力者が本当に欲しいのは地位でも金でもない、権力そのものだ、っていうのと同じ。性犯罪者の目的は性欲を満たすことではなく女を支配することだ、っていうのと同じ。そんな奴らを相手にあたしに何ができただろう。

 秘密にしてくれるはずのオナニー動画をクラスの子たちが見ているらしいことに気づいた頃、昼休みに校舎から離れた運動部の部室棟に連れて行かれた。あたしは新垣に逆らうことができなくなっていて、今度は何をされるのかと不安を感じながらも、言いなりになるしかなかった。

 新垣は野球部の部室のドアを開けた。中には五人の上級生の男子が待っていた。

「せんぱーい、連れてきたよ」

 と、新垣があたしを部室の中に突き飛ばした。

 一人の男子があたしの肩に手を回してきた。

「へえー、お前が沙希ちゃんかぁ。おい、千鶴、ホントにいいのか? この子、すげえ美少女やんか」

 その言葉ですべてを察した。あたしは脚に力が入らなくなってしまい、逃げようとすることすらできなかった。

「大丈夫だって、先輩。この子、親いないし、おとなしい子だからさ。何したって文句も言わないよ。バイブオナニーの動画見たでしょ?」

 別の男子が近寄ってきてあたしの顔に触れた。おびえて体を縮こまらせた。

「カッワイイー、震えてるやん。俺たちのこと怖いのォ? 大丈夫でちゅよー、やさしくしてあげましゅからねー」

「ちょっと、先輩たち。その子、あたしのなんだからさぁ、勝手に触らないでくれる?」

「わかってるって。おい、みんな、千鶴にカネ払え。一回五百円な」

 上級生の男子たちは口々に「俺は二回で千円」「俺も二回」「くそ、ゆうべ抜くんじゃなかった」などと言いながら新垣にお金を渡した。

「千鶴、ビデオの準備はいいか?」

 新垣はハンディビデオカメラを手にして「オッケー」と合図した。

 そのあと何をされたのか、よく覚えていない。でも、ビデオを何度も見返したから何があったのかは知っている。

 上級生たちが襲いかかってくる。

 ゾンビの群れに放り込まれたようになすすべもなく餌食になっていく。

 泣きながら、男を押しのけようと弱々しく抵抗する少女。「ヤダ、ヤメテ」とかすれた声で懇願し続ける。男たちは聞く耳を持たない。嫌がる少女を嘲笑いながら押さえつけ、まだ膨らみかけの胸と、細い脚をまさぐる。パンツを剥ぎ取られ、クリトリスを手で激しくこすられる。痛みに歪む顔。無理やりキスをされ、舌をねじ込まれる。コンクリートの床に敷かれたマットの上に押し倒され、アソコを舐められる。ブラウスのボタンが引きちぎられ、キャミソールを首までたくし上げられ、乳房を揉まれ、乳首をこすられ、髪をつかまれてキスをされ、別の男にキスをされ、アソコに指を入れられ、スカートを脱がされて、ブラウスも脱がされて、キャミソールも脱がされて――。

 この一部始終を別の少女がゲラゲラ笑いながらビデオで撮影している。

 強姦ショーはまだ始まったばかりだ。

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