ぴくりとも動かない女の子。まるで生きてるみたいなのに、息はしていない。
ということは、さっきまで生きていたってことだ。
中学生か、小学校の高学年かもしれない。そのくらいの歳だろう。シーツの下に隠されているのが、みんな同じような女の子だとしたら、全部で五人はいる。
また悲鳴をあげそうになって口元を押さえた。怖くて怖くて、漏らしそうだ。
栄寿さんが女の子を誘拐してきたのか?
もなかさんやあずきさんも協力してるのか?
親戚の子だから大丈夫だ、って、もなかさんは言ってたけど……。
秘密を知ってしまったのだから、ただで済むはずがない。
逃げなきゃいけないのに、腰が抜けて立てないんだ。わたしは涙をぽろぽろこぼしながら、ドアのほうへと床を這った。
ドタドタと廊下を走る足音がドアの前で止まった。直後に、勢いよくドアが開けられた。
「莉子ちゃん! 大丈夫かい!?」
「きゃああああぁぁぁっっ!」
栄寿さんが飛び込んできて、下着姿のわたしにつかみかかった。両腕で、ぐいっと抱きしめられた。逃れようともがいたけど、大人の力には勝てない。わたしは身動きできないよう、押さえ付けられてしまった。
栄寿さんに続いて、ふたりのメイドさんが部屋に入ってきた。
「やだぁ、助けて」
あずきさんが栄寿さんの頭を背後からつかんだ。
「ダメです、栄寿さん。莉子ちゃんから離れなさーい!」
「うがががッ」
栄寿さんがわたしから引き離された。かわりにもなかさんがしゃがみこんで、わたしを抱きしめると、
「大丈夫ですよ、莉子お嬢さま。何も心配はいりません」
訳がわからないまま泣くわたしに、優しくあやすように言った。
「女の子が……、女の子が死んでる……。どうして? 栄寿さんたち、何をしたの?」
「怖がらなくていいんですよ。あれは人形です。死んでるわけじゃないんですよ」
あずきさんが窓際に駆け寄り、カーテンを開けた。窓から差し込む陽光が部屋の中を照らし出した。お化け屋敷のような雰囲気は一瞬で消えてなくなった。
恐る恐る顔を上げて、振り返った。
床に転がっている女の子の生首が目に入った。明るい光のもとで見ても、すごくリアルで、よくよく見ないと人形だとはわからない。でも、確かにもなかさんの言うとおり、本物の生首ではなかった。
ソファに横たわっている少女のほうへ目を向けた。柔らかそうな肌に、つやのある髪の毛。驚くほど精巧にできているけれど、言われてみればなるほど人形だった。
わたしは取り乱してしまったことを恥ずかしく思った。それに、栄寿さんとふたりのメイドさんたちを殺人犯ではないかと思ってしまったこともだ。
わたしは鼻をすすりながら、もなかさんの肩越しに栄寿さんを見上げた。栄寿さんは観念したように、大きく息を吐き出した。
「本当のことを話すよ」
そう言いながらあずきさんに目配せすると、あずきさんがシーツを一枚ずつ剥がしていった。椅子にすわっている女の子やベッドに横たわっている女の子――の人形が現れた。きちんと服を着せられた人形もいれば、全裸の人形もいる。
「この子たちは、みんなラブドールなんだ」
「ラブ……ドール?」
その名前から、何に使うものか、うすうす見当がつく。でも、女性にモテモテで、ふたりの超絶美人メイドと同居していて、いつでもセックスし放題のはずの栄寿さんが、どうしてそういう人形を持っているのか。
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