背中を弓なりに反らせて、両脚を突っ張った。
息ができない。
「……ぁ、……ぁ、……ッ」
体中の力が抜けて、あたしはどこまでも落ちていく。
雲の上にいるよう。
どこまで落ちても、どこにも落ちない。
無重力の高原状態。イキっぱなし。
気が遠くなっていく。
「はぁ……、はあ……、あうう……、ギリさぁん……、好きぃ……」
津波が引いたあと、ふたたび息ができるようになり――。
「あ、あっ……、ん……、んん……ッ」
また津波に飲まれた。
そうして何度か気を失い、何度も高原状態を経たあとで、ギリさんが訊いた。
「中に出してもいい?」
「うん、中に出して。いっぱい欲しい。ギリさんの精子、いっぱい欲しい」
ギリさんのピストンに、あたしはまた気を失った。その直前、朦朧とした頭のすみで、子宮の奥に熱いものが注ぎ込まれるのを感じた。うれしい。やっぱりナマで中出ししてもらうのがいちばん気持ちいい。
あたしとギリさんは真夜中をすぎるまで何度もセックスした。あたしは何度も欲しがり、ギリさんは何度でも応えてくれた。
アソコの中がギリさんの愛であふれるほど満たされた。あたしはギリさんの心を癒してあげられただろうか。ギリさんはあたしの体が好きだと言ってくれた。ギリさんが望むならどんなことでもしてあげたい。
あたしは深い満足とともに、ギリさんの腕に抱かれて眠りに落ちた。
朝までいっしょにいてくれる人がいるってステキ。さみしくないもの。
その夜、あたしは久しぶりにぐっすりと眠れた。
翌朝、すっきりとした気分で目を覚ましたあたしは、ギリさんのために朝ごはんを用意してあげようと思った。ところが、冷蔵庫の中にはチーズとハムがすこしあるだけだった。お酒のつまみだと言ってギリさんが頭をかいた。普段は朝食抜きなんだそうだ。
どこかのカフェで食べようかと思ったけど、ギリさんはもう朝食をとる時間はないという。しかたなく朝ごはんはあきらめ、かわりにワイシャツにアイロンをかけてあげた。襟がよれよれだったもんね。ネクタイも選んであげて、寝ぐせも直してあげた。
腕を組んで、駅までいっしょに行った。別れるのは名残惜しかった。
「また会いたいです」
「うん。ぼくもまた沙希ちゃんに会いたい」
約束が欲しい。でもその前に電車が来て、あたしたちは「またね」としか言うことができなかった。
家に帰って晴嵐の制服に着替えてから、学校に行った。退屈な一日を耐えなくてはならないのは苦痛だ。ギリさんに逢いたい。ギリさんと離れていると、自分が生きているとは感じられなかった。またセックスしたい。早く抱かれたい。
休み時間のたびにギリさんにメールした。授業中はギリさんとのことが思い出されて、さみしくてたまらなかった。放課後になるのが待ち遠しかった。授業なんて放り出してギリさんのところに行きたかった。ギリさんが会社員じゃなかったらそうできたのにな。
アソコのうずきを抑えきれず、自然に股間に手が伸びてしまう。誰にも気づかれないよう、こっそりなぐさめた。
そして学校がおわると、あたしは大急ぎで家に帰り、身支度をした。きのうと同じ制服に、スカートは別の柄にチェンジして、黒タイツをはいた。
約束はしてない。でも逢いたい。きょうも押しかけたらびっくりするかな。ギリさんだってつらい毎日をすごしてたんだ。あたしに会えたらうれしいはずだよ。
夜ごはんにシチューを作ってあげようと思って、駅の近くのスーパーで食材を買った。ギリさんの部屋にお米はなかったけど、重いから買っていくわけにもいかない。好みがわからないので、パンとチンするご飯を買った。それから朝ごはんのためにグレープフルーツジュースとヨーグルトも買う。やっぱり朝はちゃんと食べないとね。
ギリさんの部屋に着いたのは五時半頃だった。まだ帰ってない。会社は何時に終わるんだろ。いまどきはまともな会社ならどこも残業規制されてるだろうし、じきに帰ってくるだろう。そう考えて、ドアの前で待つことにした。
ところがギリさんはいつまでたっても帰ってこなかった。ドアの前にぺたんと腰を下ろし、スーパーの袋を抱きかかえながら、寒さに震えた。お尻が冷たい。ときおり遠くでバイクが走り抜ける音が聞こえるほかは人の気配はなかった。アパートのほかの住人の姿も見えない。もっともこんな人気のない場所で知らない男に出くわしたら恐怖以外の何物でもないけど。とにかく暗くて心細かった。
結局、八時をすぎたところで、ギリさんを驚かせるのはあきらめた。ギリさんに電話したけど、電源が切られていた。仕方なくメールした。
『早く帰ってきて。待ってます』
[援交ダイアリー]
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