第8話 ショートポジション・ガール (02)
岩倉くんの肩をつかんで顔をちかづけた。頭を打ったりはしてないようだ。
「別にどこも痛くはない。馬乗りになっているお前が重たいだけだ」
「おもっ……」
「可愛い顔してるからって誰かれ構わず男にまたがるような女子はモテないぜ?」
「おとこ……またがっ……」
な、なんつー失礼な男子だ!
岩倉くん――いや、岩倉はバカにするようにニヤリと笑った。
顔が熱くなるのを感じた。腹を立てて体を起こすと、あたしの股間が岩倉のアレの真上に乗っかってるのに気づいた。まるっきり騎乗位だ。
「いやぁぁっ! バカ! エッチ! ヘンタイ!」
飛び跳ねて岩倉から離れると、スカートを押さえて言った。援助交際してるくらいだからこの程度のことで恥ずかしいわけないけど、普通の女子ならこういう態度を取る。
「まったく、ひどい言われようだな。ぶつかってきたのはそっちだろ」
と、岩倉は立ち上がって制服をはたきながら言った。
「た、たしかによく注意してなかったあたしも悪いけど、ぶつかったのはあんたが角から急に飛び出してきたからでしょ」
「それはこっちのセリフだ。急に飛び出してきたお前が悪い。それともワザとぶつかってきたとか? きっかけ作りにしちゃ過激だな」
「はあ? あんた、自意識過剰なんじゃないの? ちょっとばかしカッコイイからって性格が悪かったら女子にモテないよ」
「あいにく女なんかに興味ねーんだよ。お前こそ自意識過剰だろ。美星だっけ? 校内四位の美少女だそうだけど、ちょっと体が触れ合ったぐらいで変態扱いとか、頭おかしーぞ。ふだんエロいことばっか考えてるから、そんなふうに考えちまうんだ。男のことで頭をいっぱいにしているような軽い女は男から敬遠されるぞ」
「あたしは軽い女なんかじゃない」
「確かに体重は重かったぜ。まあ、重い女も敬遠されるものだけどな」
失礼にもほどがある。なんなんだこの男子は。
少女マンガなら、主人公がイケメンと知り合うきっかけになる場面だ。最悪の出会いのあと、相手が実はいいヤツだとわかって次第に惹かれていく、という展開はよくある。
でも、そんなのはマンガの中だけの話だ。こいつのどこかに惹かれる要素なんて、まったくどこにもみじんもない。
「まあ、いいや。そろそろ学食もすいてきただろうから行くわ」
岩倉はそう言うとあたしの前から立ち去ろうとした。
「ちょっと! ぶつかったのはお互い様でしょ? 謝ったらどーなのよ」
「これからは廊下は走るなよ」
振り向きもせず軽く手を振った岩倉の背中を見ながら、あたしは歯噛みした。こっちも何か捨てゼリフを言ってやらなきゃ気がおさまらない。
そこでこう言ってやった。
「あんたがホモなのはわかったけど、女の子にはもっと優しくしなよ!」
あたしと抱き合って何も感じないなんて――。
ズボンごしとはいえ、あたしのアソコにおちんちんをくっつけたんだよ?
あの体勢で勃起しないなんて、ホモでもなけりゃ許せない。
岩倉は急に振り返って大股で戻ってくると、顔をちかづけてあたしをにらんだ。
「お、れ、は、ホモじゃない!」
「なに? ず、ぼ、し?」
あたしはニヤニヤ笑いながら追い打ちをかけた。
「女の子にキョーミないってことは、男の子にキョーミあるってことだよね? 別に恥ずかしがることないじゃん。それも個性だよ。で、岩倉くんはタチ? それともウケ?」
岩倉は真っ赤になって反論しようとしたけど、「くそっ」と吐き捨てて、不機嫌そうに階段を下りていった。
勝った。しかし虚しい勝利だ。相手の好意は得られないのだから。なんちゃって。
ホモと言われたときの岩倉の反応からすると、どうやら実際はホモじゃないようだ。秘密を見破られたことに対する恐怖の色がなかったもんね。でも、それにしてはあの怒りようは不自然だったな。華奢な体格で顔立ちもキレイだから、ふだんからホモ疑惑が絶えないのかも。BL好きの女子が放っておかないだろうし。だからモテるのに女嫌いというわけか。あたしのカラダに興奮しなかったのがホモだからじゃないとすると、ひょっとしてインポなのか? まだ高校生なのに不憫だね。
まあ、どーでもいいや、あんなヤツ。
一条さんからのメールの返事は、下校時間の頃にきた。日曜日に会って、投資についていろいろ教えてくれるそうだ。ひょっとしたら本当に株の話をしておわりになるかもしれない。あたしも一条さんも援交の話はまだしていないからね。
逃げ道を残しているとはいえ、一条さんだって『あわよくば幼い少女とエッチできるかも』と期待してるはず。
大人の男性が女子中学生を呼び出すというのはそういうことだ。
[援交ダイアリー]
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