校長先生のお話が終わる頃には、あたしは平静を取り戻していた。冷静に考えれば、知らぬ存ぜぬで押し通す以外にないのは明白だ。
この状況から逃げることなどできない。でも大丈夫だ。きっと切り抜けられる。
体育館から戻ると、あとは簡単な連絡事項の伝達だけだ。それも終わると、あたしはバッグを持って席を立った。いまは逃げよう。
「ああ、美星」
ほかの生徒たちに混じって廊下に出たところで、背後から藤堂先生に呼び止められた。
あたしはドキンッとして固まった。おそるおそる振り返ると、先生が歩み寄ってきた。怖くて目を合わせられない。
「な、なんですか……?」
先生は黙ったまま、あたしの太ももを凝視した。思わずミニスカートの裾をつかんで、太ももを隠すような仕草をしてしまった。
恥ずかしい。怖い。
このサブリミナル制服に引き寄せられてあたしをエッチな目で見るのはいい。だけど、こんな間近でこんなに堂々と視姦してくるなんて。見てもいいけどマナーを守ってよ。
動けないでいると、不意に女生徒の声がした。
「おーい、美星さーん」
我に返って声のした方に目をやると、先生と話してるところを邪魔しちゃったかなというような顔をした吉野さんがいた。
あたしは藤堂先生に向き直ってにらみつけると、
「いやらしい……」
と、小声でつぶやいた。それで先生も意識を取り戻したみたいにパチパチとまばたきをした。あたしは吉野さんに駆け寄って、先生の方を振り返らずにその場を離れた。
「大丈夫だった?」
しばらくして吉野さんが尋ねた。用があったわけじゃなく助けてくれたのか。
「うん。ありがとう」
「あの先生、ちょっとヤバくない? なんか朝から美星さんのことジロジロ見てるような気がして。美星さんは上級生からストーカーされたこともあったでしょ?」
「あはは、考えすぎだよぉ」
笑って誤魔化したものの笑い事ではない。実際、藤堂先生があたしのストーカーになることは十分ありうる話だ。あの人は変態だ。
あの日――。
お金を受け取ったあと、はにかみながら「ほんとの恋人みたいにやさしくしてくださいね」とお願いした。先生は何を考えているのかわからないムスッとした表情のまま、あたしをラブホテルに連れて行った。
部屋に入るとローターを渡され、服を着たままオナニーをするよう命じられた。恥ずかしかったけれど、お金ももらってるし、これくらいならと応じた。
先生はあたしのオナニーをながめながら全裸になり、新品のSM用ロープを取り出した。おびえるあたしに「乱暴なことはしない、すこし趣向を凝らしたいだけだ」と言って、あたしの両腕を後ろ手に縛り、両膝を曲げた状態で拘束した。さらに脚を閉じれないように固定され、「こんなの嫌だ、こんなことしたくない」と訴えても許してくれなくて、かわりに猿ぐつわをされた。
それからローターで、つぎにバイブレーターを使って、執拗にいじめられた。
怖くて怖くて、すすり泣くことしかできなかった。
だけど、バイブを挿れられて責められると、体が反応してしまって、どうしようもなく気持ちよくなってしまった。あたしの悲鳴のような悶え声を聞いて先生も興奮してきた。両方の乳首に貼り付けられた二個のローターと、あたしの中でくねくね動くバイブレーターの刺激に、あたしは全身を痙攣させながらおしっこを漏らしてしまった。その様子に満足した先生は、ぐったりしたあたしに挿入して、すぐに果てた。
終わって解放されたあと、あたしは一目散にホテルから逃げた。
気持ちよかったのは認める。乱暴な扱いもされなかった。
だけど、あたしは変態プレイじゃなく、恋人としてやさしく抱いてほしかったのに。
始業式の翌朝、登校してみると校門のところで風紀委員が服装検査をしていた。先生も何人かいる。これまで髪染めを注意されたことはない。カスタムメイドの制服だっていつもパスしてる。晴嵐はそれほど服装にきびしくないから、あたしは何も心配しなかった。
でも、そこに藤堂先生もいた。たぶん新任だから経験のために駆り出されたんだろう。
あたしは顔を伏せて、足早に通り過ぎようとした。すると、
「おおっ、美星ぃ、髪の毛、染め直したのかぁ?」
ジャージ姿の若い男性教師が声をかけてきた。下田先生だ。
「あまり男子生徒を悩殺したらいかんぞ。髪型も色気づいとるな」
[援交ダイアリー]
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