あずきさんもそうだけど、改めて見ても、もなかさんは惚れ惚れするほどの美人だ。わたしはベッドの上に体を起こして、もなかさんのグラマーな肢体にため息をもらした。こんな体になりたいな。
もなかさんは持ってきた毛布を床に敷いた。
「ベッドで寝ないんですか?」
「わたくしは使用人ですから、お嬢さまと同じベッドで寝るわけにはまいりません」
「そんなこと気にしなくていいのに」
わたしは仰向けにベッドに倒れこんで、天井を見上げた。
「もなかさんって、普段はあずきさんと同じ部屋で寝てるんでしょ? あずきさんとふたりきりのときも『わたくし』って言うんですか?」
「わたくしは――、わたくしは仕事とプライベートは違うのだとわきまえておきたいだけですわ」
つまり、メイドの仕事を離れれば普通の言葉使いになるのだろう。
もなかさんは照明のリモコンを手に、横になって毛布にくるまると、
「偏屈な女だとお思いになるでしょうけれど」
「そんなふうには思ってませんよ。価値観や生き方は人それぞれだと思うし、それは尊重されるべきだわ。わたしはただ、もなかさんと仲良くしたいんです。でも、もなかさんからしたら、わたしなんか、分別のないエロガキに見えるのでしょうね」
「わたくしは莉子お嬢さまのことをそんなふうに思ってはいません!」
もなかさんが起き上がって言った。大きな声を出してしまって恥じ入ったようで、すぐに視線をそらした。
わたしはベッドから降りて、もなかさんの隣に毛布を敷いた。その上に掛け布団を載せる。
「もなかさんが床で寝るなら、わたしもそうするわ」
「そんな……。お嬢さまはどうぞベッドで――」
「あっ」
わたしが声を上げたのでもなかさんが言葉を切った。なにごとかと見つめられて、わたしは苦笑いした。わたしは何も言わずに、バッグからナプキンを取り出した。念のため、持ってきてたんだ。
「えへへ、垂れてきちゃう。お父さんの精液」
たくさん中に出されたからなぁ、と思いながら打ち明けた。
もなかさんは呆けた顔をしたかと思うと、真っ青になってわたしを抱きしめた。
「どうしてご自分を粗末に扱うんですか。ちゃんと避妊しなきゃダメじゃないですか」
「大丈夫ですよ。きょうは安全日ですから」
もなかさんが泣きそうなので、ちょっと申し訳なく思った。嫌われてるわけじゃなさそうだ。ほんとにわたしのことを思ってくれてるんだな。
「心配かけてごめんなさい、もなかさん」
もなかさんはわたしを離して、涙をぬぐった。
「もう、わかりましたら。さあ、ナプキンを付けていらっしゃい。それから、やはりお嬢さまはベッドでお休みください。わたくしもベッドに寝かせていただきますから」
それを聞いて安心した。わたしはできるだけ自然な笑顔を作って、ずっと言いたかった言葉を口にした。
「友だちになりたい。もなかさんと」
一瞬びっくりしたような表情を見せたあと、もなかさんは静かに微笑んだ。
急に恥ずかしくなって、返事を聞かずに部屋を飛び出した。
つづく
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