ちんちん生えてきた(01)
[Next]
■品川 日本 7月25日
ある朝、ミフユが何かみだらな夢から目をさますと、パンツの中に見たこともないほど大きく怒張したおちんちんが生えているのを発見した――。
「ふぎゃぁぁぁぁっっっ!! な、なんぞこれぇぇぇっっ!!」
最初に感じたのはじんじんする痛みだった。子供の頃に虫歯で歯茎が腫れてしまい泣きながら歯医者に連れて行かれたときのことを思い出した。股間からそそり立つピンク色のソレはいまにもはちきれそうに脈動し、そのたびにズキズキと痛む。
ミフユはちいさな出版社に勤める二十一歳。アキトという三歳年上の彼氏がいるので、男のモノを直に見たことはある。彼のモノより長く太かった。カリも大きい。包皮や浮き出た血管はなく、表面がつるんとしているせいで、どこか漫画的にも見えた。
よく見ると先端に切れ目がない。一度だけフェラチオをしたことがあるので、尿道から精液が湧き出す様子を間近に見たことがある。コレはソレとは違って精液であれおしっこであれ、何かが出てくる口はなかった。
本物の男根とはちょっと異なっている。してみるとコレはいったい……。
冷静さを取り戻しはじめたとき、いきおいよくドアが開けられた。
「ミフユ! 何ごと!? 大丈夫?」
お玉を持ったエプロン姿のハルカが血相を変えて飛び込んできた。
「うわぁぁぁっっ!」
ミフユはまた悲鳴を上げてタオルケットで自分の股間を隠した。
「な、なんでもないッ。大丈夫。ちょっと怖い夢を見ただけだからッ」
ハルカはすこし怪訝な表情でミフユを見つめたが、とりあえず異状はない様子なのを見て取ると、唇の端をあげた。
「ならいいけど。そろそろ朝ごはんできるよ。マナツのことも起こしてきてくれない?」
「わ、わかった」
ハルカがドアを閉めてリビングに戻ると、ミフユは改めて自分の股間を見た。
おちんちんが生えている。しかも勃起している。朝立ちだ。
(ひぃぃぃ、夢じゃなかった……。あたし、どうなっちゃったのぉ……?)
眠っているあいだにうっかり男になってしまったのではないかという恐怖を覚えた。手探りでアソコを確認してみると、女性器はきのうまでと同じようにちゃんとそこに存在していた。
(タマタマはついてないな……)
男になったわけではないようだ。ミフユはすこしホッとした。
ミフユはハルカやマナツとともにVIO脱毛している。股間はつるつるにしているので、おちんちんの生え際もよく見えた。生えているというか、皮膚が裂けて体の中から突き出しているように見える。ちょうどクリトリスのあるあたりだ――。
その瞬間、天啓のようにひらめいた。
(まさかコレは……、クリトリス……?)
普段はかすかに覗くだけのクリトリスが、なぜか十五センチほどの棒状に腫れ上がっているのだ、という推理は、突然おちんちんが生えてしまった、という考えよりよほど受け入れやすい。なにかの病気? 病院に行くとしたらやっぱり婦人科だろうか。
ミフユはゴクリとつばを飲み込んだ。
(これがクリトリスだとすると……)
そっと手を触れてみる。熱い。指の腹でくりくりと撫でてみた。
「ひゃううううぅぅぅんッ」
快感の電気が背中を駆け抜けた。動悸と息苦しさを感じ、怖くなって手を離した。ただのクリオナより何倍もキツい気持ちよさ。自分はいったいどうなってしまったのか。恍惚と不安に頭が働かず、ベッドの上で動けなかった。
ところが、しばらくするとソレは急速に縮みはじめた。風船から空気が抜けるように見る見るちいさくなっていき、とうとう豆粒大のクリトリスに戻ってしまった。
ミフユは呆然としてクリトリスを突っついてみたが何も起こらなかった。夢を見ていたのだと言われたら納得してしまいそうだ。けれどこんなこと誰に相談できるだろう。
出勤用のワンピースに着替えてリビングに出ると、朝食当番のハルカがダイニングテーブルに皿を並べているところだった。
ミフユは高校時代からの親友のハルカ、それに就職後に知り合ったマナツと三人で、4LDKのマンションをルームシェアしていた。職場は異なるが三人とも同い年だ。
「おはよ、ミフユ」
笑顔であいさつするハルカを見て、ミフユはそれまでの共同生活では経験したことがないほど激しく心が揺さぶられるのを感じた。それはただのクラスメートだと思っていた男子が急に気になりだしたときの感覚にそっくりだった。顔が熱い。恥ずかしくてハルカの顔を見ていられない。
その時ふたたび股間に痛みを感じた。膨張したクリトリスがパンツのゴムに挟まっているのだ。スカートの前が膨らんでいるのに気づいて思わず前かがみになった。
なにがなんだかわからない。自分は心も体もどうにかなってしまったのか……?
だめだ。こんなこと誰にも知られるわけにはいかない。
[Next]
Copyright © 2022 Nanamiyuu