(操は初心なわりに、性に対して無防備なところがある。男はみんなケダモノだということがわかってないんだ)
真琴は、自分や操が多くの男子生徒たちのセックスファンタジーのネタにされていることを知っていた。生徒会が見つけた学校裏サイトで、自分たちが妄想の対象になっているのを実際に見たことがあるのだ。だが、男というのはそういうものだ。しかも、ときどき妄想で終わらずに実行に移したりするヤツがいるものなのだ。
(操はそこがわかってない)
誰もいない図書室。矢萩は勉強会だと騙して、操を呼び出す。
『相沢は本当に勉強熱心だな』
『こうして先生と二人っきりで勉強していると、お父さんに勉強を見てもらってるみたいな気がするんです。先生って、優しいから大好きです』
『先生も相沢のことが好きだ。でも、それは相沢の好きとはちょっと違うんだ。わかるかい?』
『違う好きですか?』
『相沢はボーイフレンドとかいるの?』
『いえ、あたし、恋愛とかよく分からなくて。そういうのはまだいいかな、っていうか』
『でも、先生はもうがまんできないな。相沢、お前を抱きたい。お前のすべてが欲しいんだ』
『あっ、やめて、先生、やめてください』
『お前が悪いんだぞ、相沢。全部お前のおっぱいがいけないんだ。罰として、お前のパンティとブラジャーは没収する。心配するな、痛くないように優しくしてやるから』
『はなしてください、先生、やめて。あたし、初めてなのに』
『いいか、相沢、このことは誰にも言うんじゃないぞ。クラスメートにも、ほかの先生にもだ。そんなことをしても、困るのはお前の方なんだからな』
『あうう、お母さん……』
真琴の手の中で、シャーペンが真っ二つに折れた。
ディテールはどうであれ、論理的に考えれば、状況を説明できるシナリオはひとつだけだ。
真琴は唇を噛んだ。
(あたしが、もう少し早く図書室に行っていたら……。あのとき、呼び止められて外に出ていなかったら……)
すぐそばにいたのに操を助けられなかったことが悔やまれた。
(許せない。おそらくは結婚を前提に付き合っている恋人がいながら、教え子に手を出すなんて、最低の男だ)
怒りで胃のあたりが熱くなるのを感じながら、真琴はかつて自分の身に降りかかった出来事を思った。
中学三年生のころ、真琴は同じ学校を卒業した先輩と付き合っていた。先輩の卒業式に思い切って告白したのがきっかけだった。その先輩は、成績はいいのにちょっぴり不良っぽくて、バレンタインにはたくさんチョコをもらっていた。ライバルが多かったから、告白を受け入れてもらえたときには、真琴は有頂天になってよろこんだ。
初夏のある日、先輩のマンションに連れて行かれた。家の人は誰もいなくて、なんとなくそういう雰囲気になっていくのを、真琴は感じていた。どうしようと思いながらも踏ん切りがつかず、顔を伏せたまま、激しくなる鼓動だけが聞こえていた。
そして真琴はベッドに押し倒された。
怖かった。まだ早すぎると思った。いつかはそうなるとしても、まだ心の準備ができていない。だから抵抗した。
けれど、肩を押さえつけられて身動きとれない状態で、
「お前だって本当はしたいんだろ?」
と先輩に言われた。
それだけのことで抵抗する力が抜けた。
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