脱がせ鬼(03)

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 わたしの両足は地面から浮き上がっていました。持ち上げられていたのです。

 いくら体を揺すっても逃れることができません。

 老婆の手のように小さいのに、力はプロレスラーのように強いのです。

 真っ黒い手がタイトスカートをまくりあげ、探るように太ももに触ってきました。

「ヌガセ……、ヌガセ……」

 脱がせ鬼の声なのでしょうか。

 多重録音したみたいにエコーのかかった、しゃがれた声でした。

「ヒーッヒッヒッヒッ」

 まるで周りじゅうから聞こえるような不気味な笑い声。

 脱がせ鬼の声は右から聞こえたかと思うと左からも聞こえるようで……。

 わたしが嬲られるのを見物している存在に取り囲まれているような絶望感。

「パンツ……、パンツ……」

「ヌガセ……、ヌガセ……」

 ノースリーブのブラウスを引っ張られて、ボタンが弾け飛びました。

 夜の不倫デートの帰りだったので、わたしはブラジャーをしていません。

 あらわになった乳房を脱がせ鬼の手が鷲掴みにしました。

 そして揉みしだいてきました。

 何人もの痴漢に同時に襲われているように。

 脱がせ鬼の手がわたしの上半身をまさぐっています。

 わたしは両腕を左右に伸ばされて、磔の刑にされたような格好。

 鎖骨に沿って撫でられ、脇の下を触られ、乳房を揉み回されました。

 その手が、恐怖でピンッと勃った乳首に触れました。

「ん……!」

 感じてしまい、身をよじりました。

 すると脱がせ鬼は乳首を指でいじり始めました。

「んん……、んん……」

 怖くてたまらないのに、わたしは激しい性的快感を覚えました。

 もともと感じやすい体なのですが、このときは恐怖でおかしくなっていたのでしょう。

 でも、脱がせ鬼の目的はわたしを性的に陵辱することではありません。

 わかっていました。

 脱がせ鬼はわたしのブラジャーを探しているのです。

 だけど、わたしはノーブラです。

 脱がせ鬼の手はわたしの下半身にも襲いかかってきました。

 スカートを力まかせに引っ張り、ホックとファスナーを壊されました。

 スカートを引きずり降ろされるのと同時に、ブラウスを引きちぎられました。

「ヌガセ……、ヌガセ……」

「パンツ……、パンツ……」

「ヒーッヒッヒッヒッ」

 脱がせ鬼の手がわたしのお尻をつかみました。

 何人もの男たちに押さえつけられて、レイプされるのを受け入れるしかなくなったときのように、全身が疲れ切っていて、心が麻痺していくのを感じました。

 こんなことが現実にあるはずがない。

 これはぜんぶ夢だ。

 そう思いつつも、これがすべていままさに起きているのだという感覚。

 たしかな実感がありました。

 早く終わってほしい。

 パンツならあげるから……。

 お願いだから、家に帰して。

 涙が頬を伝ってこぼれ落ちました。

 脱がせ鬼の手がわたしの股間を包み込む薄布をいじりはじめました。

 薄いピンクのサテン生地にレースのフリル。

(それをあげるから……。早く奪い取って、わたしを解放してよ……)

 無抵抗ですすり泣くわたしの下半身に群がる無数の手。

 ところが、脱がせ鬼の動きがためらいがちになりました。

 戸惑っているみたいに。

 初めてフロントホックのブラジャーを目にした男のように。

 このときわたしが身に着けていたのはパンドルショーツ。

 つまり、女性用のふんどしでした。

 女性用のオシャレなふんどしは、ゆったりして付け心地もいいのです。部屋着としても愛用しているのですが、その日は彼が見てみたいというので、ふつうのショーツの代わりに付けてきたのです。

 脱がせ鬼は、あちこちまさぐった挙げ句にようやく紐の結び目を見つけました。

 紐をほどかれ長方形の布が奪われました。

「パンツ……、ジャナイ……。パンツ……、ドコ……」

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