乾いた音が寝室に響いた。あたしはその場にへたりこんだ。なにがなんだかわからなかった。思いもしないレオくんの行動に、泣いていたことも忘れてふたりを見つめた。
どうやら則夫さんとレオくんは知り合いだったらしい。ふたりとも勃起したまま全裸で見つめ合っている。則夫さんは唖然とした表情のままだったけど、レオくんは痛みをこらえるように口元を歪めた。
「悪いのはノリちゃんだ……」
レオくんが消え入りそうな声で繰り返した。それからほとんど泣き声に近い声で、
「会いたかったよ、ノリちゃん!」
そう言いながら、レオくんが則夫さんに抱きついた。
な……!?
則夫さんはうしろによろけながらもレオくんを抱きとめた。背は則夫さんのほうが高い。がっしりした則夫さんの腕に抱かれると、レオくんの中性的な容姿はますます女性的に見えた。
「レオ……」
則夫さんがつぶやいた。
則夫さんの胸に顔をうずめるレオくん。まるで再会した恋人どうしのように見えた。あたしは見てはいけないものを見てしまったように思えたけれど、呆然としたままふたりから目をそらすことができなかった。
レオくんが則夫さんをぎゅっと抱きしめると、勃起してるふたりのアレがこすれ合った。その瞬間、ふたりとも射精してしまった。互いの精液が相手にかかり、則夫さんがひるんだ。則夫さんは小さく呻いて、レオくんを引き離した。さんざん出したあとのレオくんと違って、則夫さんの噴出はなかなか止まらない。どろりとした液が床に飛び散った。
則夫さんがレオくんとあたしの顔を交互に見ている。まだ状況がよく飲み込めていない様子だ。それはあたしも同じだった。
「レオ、どうしてお前がここにいるんだ」
ようやく則夫さんが言った。レオくんはわかりきったことを訊かないでと言いたげな表情で、
「ノリちゃんに会いたかったからに決まってるじゃないか。ノリちゃんとやり直したいんだ。ノリちゃんがぼくを捨てて女のひとに走ってからも、ずっとノリちゃんのことが忘れられなかったんだよ」
「俺は奈緒美と結婚したんだ」
「奈緒美さんはぼくと不倫したんだよ!」
レオくんはあたしのほうに視線を移した。さっきはあたしのことを好きだと言ってくれたのに、いまのレオくんはあたしをさげすむような目で見ている。
「奈緒美さん、言いましたよね。ぼくのことが好きだって。これからもぼくとセックスしたいって。ノリちゃんには内緒にするから、これからもぼくと関係を持ち続けたいって。そう言いましたよね」
あたしはとっさに反応できなくて、口をぱくぱくさせた。
どういうことなのか頭ではだんだんわかってきたのだけど、心と体がついてこない。
レオくんは則夫さんに向き直ると、
「奈緒美さんはそういう女なんだよ。女のひとなんてみんなそうなんだ。ノリちゃんのお母さんと一緒だよ。これでわかったでしょ」
あたしが反射的に則夫さんの顔を見ると、則夫さんと目が合ってしまった。則夫さんが怯えたように目をそらした。
「ノリちゃんだって、ほんとは奈緒美さんのことを愛してなんかいないんでしょ?」
レオくんは言葉を切って、あたしを見ると、
「だって、ゲイなんだから」
[新婚不倫]
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