わたしはすっかり幻滅して、深いため息をついた。
「栄寿さんはふたりをセックスの道具として扱わなかった。ふたりと信頼を深めてセックスするまで二年もかかった。いまさらほかの人に交代なんて無理な話だわ」
「セックス、セックスと連呼するのはやめてくれ。はしたないじゃないか。お前はまだ中学を卒業したばかりなんだぞ」
「わたしは――」
わたしはもう子供じゃない、セックスだって経験済だ、ほかならぬ栄寿さんと!
そんな子供じみたことを叫んでしまいそうになるのをぐっとこらえた。いつもいつも考えなしなことを口走ってしまうけど、わたしだって経験から学ぶのだ。
でも、黙っていられない。
わたしたちの世界はおじさんの知っている世界とは違うんだってことをわからせてやらなきゃ。
わたしは落ち着いた口調で、爆弾を爆発させた。
「栄寿さんにはふたりが必要なのだわ。おじさん、栄寿さんがセックスした相手はもなかさんとあずきさんだけじゃないわ。栄寿さんはわたしともセックスしたの。ゆうべだっていっぱいしたのよ。血の繋がった娘であると知りながら、何度もわたしを抱いているの。わたしの初体験の相手はお父さんなのよ」
おじさんの日焼けした顔が、こんどこそはっきりと青ざめた。栄寿さんに掴みかかると、げんこつで殴った。メイドさんたちが悲鳴をあげた。栄寿さんは床に転がった。さらに殴りかかろうとするおじさんをあずきさんが羽交い絞めにした。もなかさんは栄寿さんに覆いかぶさるようにしておじさんから守ろうとした。
「栄寿、きさまという奴はッ。莉子はお前の実の娘なんだぞ」
わたしはその場に座ったまま、様子を見ていた。
栄寿さんが手の甲であごをさすりながら、
「兄さんから見たら、ぼくは変態で人でなしかもしれない。でも、ぼくは莉子ちゃんのことを心から愛している。もなかちゃんのことも、あずきちゃんのこともだ。だからセックスした。そのことを恥ずかしいとは思わない」
「この野郎、お前のしたことは自分の娘に対する性的虐待だ。莉子を取り返しがつかないほど傷つけたんだぞ」
おじさんがまた拳を振り上げ、もなかさんが栄寿さんに抱きついてかばった。
わたしは立ち上がると、できるだけはっきりした口調で言った。
「おじさん、わたしは神楽坂那由多の娘よ。わたしが栄寿さんを誘惑して初体験の相手になってもらったの。わたしはまだ子供かもしれないけど、自分のしていることをわかっているわ。大好きな人だからセックスしたの。虐待なんかされてない。被害者扱いしてほしくないわ」
夏目おじさんと栄寿さんが動きを止めてわたしの方を見た。ふたりとも恐縮したような表情で動かなくなってしまったので、わたしのセリフにそんなにおそれいったのかと思ったけど、違った。わたしの後ろを見ていたんだ。
「話はぜんぶ聞かせてもらったわ」
振り返ると、ママが立っていた。すこし後ろにパパと悠里もいる。
「ママ!」
ママに飛びついた。ママはわたしを抱きしめてキスすると、
「ちょっと見ないあいだに大きくなったわね、莉子」
夏目おじさんが栄寿さんから離れて、よろよろと立ち上がった。
「那由多さん、それに柊。なんとも思わないんですか。莉子が、この変態の毒牙にかかったというのに」
「誇らしく思うわよ。我が家の教育方針から言っても、莉子はよくやったわ」
「俺は妻と娘を支持する」
ママとパパが答えた。
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