あたしは安心しきった態度で、田辺さんの肩にもたれた。
「改めてお礼を言います。助けにきてくれて、ありがとう。ほんとうに、すごくうれしかったです」
田辺さんが、さっき返した十万円を握りしめた。
つばを飲み込む音が聞こえた。
「あの……、沙希……」
「うん。いいですよ。お金はいりません。でも、やさしくしてください」
あたしがバッグからコンドームを取り出して渡すと、田辺さんはすこしためらった。
「いまでなくても――」
「ううん、いま抱いてください。浮気はきょうでおわりにしなくちゃダメですよ。それに、あたしの中からイヤなことをぜんぶ追い出してほしい。あたしの心と体を気持ちいいことでいっぱいにしてほしい」
田辺さんを見つめると、じっと見つめ返された。
それだけで濡れてくる。
目を閉じた。
求められることがうれしい。
あたしとセックスしたいと思ってくれてることがうれしい。
キスされた。きのうのレイプのときとは違う、やさしいキス。
舌を絡ませあう。
肩を抱かれて、バスタオルをはずされた。そのままベッドに押し倒される。
あたしは田辺さんを誘うように引き寄せた。
キスをしたまま田辺さんが体を重ねてきた。
田辺さんも服を脱ぎ始める。
あたしも手伝ってあげる。
唇は離さない。
抱き合って、肌と肌を合わせる。あったかい。やさしさに包まれる感じ。
すっかり裸になってしまうと、田辺さんが唇を離して、あたしを見つめた。
「かわいいな、沙希は」
「男の先生はみんな、授業中にあたしのことをいやらしい目で見てるし、あたしのことを犯してみたいって、職員室で話してるよ」
「きのうのことは悪かったよ。だが、大抵の男にはああいう願望があるものだ。だからって本当にレイプしたりはしない」
あたしはくすくす笑った。
「いいよ。わかってる」
中学生のとき、学校で集団レイプされた。
小学生のときの虐待はあたしに原因がある。お父さんのこともお母さんに雇われた男たちのことも恨んではいない。
だけど、中学のは違う。ビデオを撮られて脅されて笑いものにされた。
あいつらのことは許さない。
先生は誰も助けてはくれなかった。それどころか、あたしは男性教師たちが、あたしを強姦する相談をしているのを聞いてしまったことがある。
『美星をヤリたいなぁ。あいつはレイプされても泣き寝入りするだろ』
『母親が風俗でしょ。いじめられてるようですし、ちょっと脅せば言いなりでしょうな』
『授業中に生徒指導室に呼び出せば邪魔も入らないな』
『ヤリますか。そのときは私も一口乗りますよ』
『バカ。滅多なことを言うな』
生徒指導室に呼び出された日、実際には強姦はされなかった。いやらしいことを言われて、体に触られたけど、先生が怖気付いたおかげであたしは難を逃れた。
だから、きのうの擬似レイプは、あたしにとっては現実だったんだ。
田辺さんもそういう連中のひとりなんだと思った。
それが悲しくてたまらなかった。
でも、違ってた。
田辺さんはあたしを助けにきてくれた。
この人のことは信じられる。
「女にはレイプ願望があると思ってる?」
「男の俺にはわからんよ。もしそういう願望があるんだとしても、本物のレイプとレイプファンタジーは違うだろ」
「うん」
もう一度、キスしてくれた。
抱きしめて、体を密着させた。田辺さんの体温を感じた。
田辺さんもやさしく抱きしめてくれた。
ひとりじゃないって感じられる。
[援交ダイアリー]
Copyright © 2012 Nanamiyuu