もなかさんとあずきさんが、栄寿さんの顔色をうかがうように見た。
「ぼくは十二、三歳の女の子が好きなんだ」
栄寿さんの告白に、わたしはゴクリとつばを飲み込んだ。
「以前のぼくは、何人もの小学生や中学生の女の子と恋愛をして、セックスもしてきた。彼女たちのことをとても大切に思っていたけど、もちろん、それは許されないことだ。これまでおおぜいの女の子たちを傷つけてしまった。だから、ぼくはこの別荘でラブドールのこの子たちと暮らすことにしたんだ」
「でも、もなかさんとあずきさんは? 栄寿さんはふたりとエッチなことしてるんですよね? セックスするためにここで働いてるって、あずきさんが……」
あずきさんは頭をかきながら、
「あたしたちは栄寿さんが大人の女性とセックスできるようになるための練習台なんだ。でも、その役目を果たせないままなんだよ。ふたりともまだバージンなんだ」
「練習台って、そんな……」
もなかさんが栄寿さんをかばうように微笑んで、
「わたくしたちは進んで栄寿さまにお仕えしているのです。わたくしもあずきも、夏目家には大変な恩があるのですよ。高校に行けたのも夏目さまのおかげなのです。わたくしたちが栄寿さまのために役立てるのなら、どんなことだってして差し上げたいと思っているのですよ」
あずきさんも無言のまま笑顔を見せた。もなかさんと同じように思っているのだろう。
わたしは栄寿さんを見上げて、
「大人の女の人とはセックスしたことがないんですか?」
栄寿さんはすこし言いよどんで、
「ひとりだけ、年上の女性と関係を持っていたことがある。小学六年生になったばかりのころ。ぼくにとって初めての女性だった。那由多(なゆた)さんだよ」
全身が凍りついたかと思った。
「ママと……?」
栄寿さんとママがセックスしてた……? 栄寿さんが小六のときってことは、わたしが生まれるちょっと前だ。
あ……。
不意にとんでもない考えが頭に浮かんで、たちまちわたしの心を占領してしまった。そんなはずあるわけないと思うのだけど、でもひょっとしたらという気持ちがむくむくと湧き上がってくる。
栄寿さんがわたしの父親だったりして……。
いろいろなことを一度に聞かされて、わたしはすっかり混乱してしまった。どうにも気持ちの整理がつかない。立ち上がると部屋を飛び出して、となりの部屋に逃げ込んだ。
もなかさんたちの部屋に戻ったつもりだったけど、間違えて別の部屋に入ってしまったようだ。
広々とした部屋だった。窓が開け放たれていて、レースのカーテンが風に揺れている。その向こうには広いバルコニー越しに海が見渡せた。大きなベッドがひとつあるほかは、家具らしい家具はない。
栄寿さんの寝室だ。
ベッドの上には、青いロリータドレスを着せられた人形が横たえられていた。二つ結びにした黒髪に幼い表情。スカートがまくり上げられ、胸元がはだけられている。フリルのついたかわいいブラジャーがずらされて、小さな乳房が露出していた。
わたしにそっくりのラブドール。
別荘に着いたとき、栄寿さんがわたしを見て息を飲んだ理由はこれだったんだ。
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