人妻セーラー服(10)

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 くるみはセーラー服姿なのだから、まあ、そうなるよね。

「未成年でしょ。学校帰りにラブホテルなんて来ちゃダメじゃない。法律でダメということになっているんだから。うちが迷惑するのよ。利用するなら卒業してからにしてちょうだい」

 おばさんは、営業停止にされたらかなわない、と、一刻も早くくるみたちを追い出そうとする。あかねくんは高校生でも普通にラブホテルに入れると思っていたのだが、今の状況では内心ホッとしていた。

「ねえ、店員さん、ちょっと」

 と、くるみはフロントのおばさんの肩に手を回してあかねくんから離れると、あかねくんには聞こえないよう小声で、

「ごめんなさい。セーラー服なんて着てたら注意するのが当たり前ですよね。でも、あたし、実は成人してて。迷惑かけるつもりはないんです。これは、その……、プレイの一環というか、高校生の気分でという趣向で……」

 言いながら、くるみはそっと運転免許証を見せた。スタッフのおばさんは免許証の写真とくるみの顔を交互に見比べた。

「つまり、あなたはプロの女性ってこと?」

 プロの女性という言葉が何を意味するのかすぐには分からず、くるみは曖昧な笑みを浮かべてごまかした。

「困りますよ。制服プレイをしたがるお客さんは多いのでしょうけど、そういう場合は部屋で着替えるようにしてくれないと。ホテルに入るところを見られたら通報されるかもしれないんだから。次からは気をつけてくださいよ」

 おばさんは文句を言いつつ、カードキーを渡してくれた。あかねくんは年齢確認されなかったけど、背が高くて大人っぽく見えたから? あるいは、おばさんも女だからイケメンには甘かったのかも。

 部屋に入ると、くるみは全体を見回した。そこはくるみが初めてのセックスを経験した部屋だった。くるみが大学に進学して最初の五月の連休に、帰省した渡辺先輩にこのベッドで抱かれたのだ。腰掛けてスプリングの感触を確かめてみた。

 思ったほどの感慨はないな、とくるみは思った。もっとつらい気持ちになるんじゃないかと覚悟していたのだが。かわりに胸の奥をいろんな思いが吹き抜けた。こういうのを万感の思いというのかな。あれから七年。なんだかずいぶん遠いむかしのことのように思えた。

(付き合ってるあいだ、先輩とは何回くらいエッチしたっけかな。三回……、四回か)

 そのあと振られた。

 未練があるわけじゃない。こうして渡辺先輩とのことを思い出しても平気だ。ほかの女に乗り換えられたことは悔しいけど、くるみも亮さんと出会ってしあわせになれた。

 だからセーラー服を着て胸が苦しくなったのは、渡辺先輩のことを思い出したからじゃないんだ。

(これは、あたしと亮さんとの問題なんだ)

 くるみは靴を脱いでダブルベッドに横たわった。

 深呼吸をする。セーラー服を着て街に繰り出すという冒険をしたせいで、心も体もほどよい疲労を感じていた。

 あかねくんがずっとベッド脇にたたずんでいるのに気づいて、くるみはベッドを手でポンポンと叩いた。

「あかねくんもこっちに来て寝そべってごらんよ。ふかふかで気持ちいいよ」

 そう促されて、あかねくんもベッドに座った。

「くるみ、パンツが見えてるぞ。お前、無防備すぎるだろ。ラブホの部屋で男と二人っきりだっていうのによ。襲うぞ」

「大丈夫だよ。あかねくんは何もしないって約束してくれたもん」

「だから、なんでそんな口約束を信じられるんだよ。きょう会ったばかりだっていうのによ。俺がどんなに悪いヤツかくるみは知らねーくせに」

「あかねくんはいい子だよ。だから信じる。ねえ、すこしお昼寝していこうよ。あたし、ちょっと疲れちゃった」

「お前なぁ――」

 あかねくんが言いかけたとき、くるみはもう寝息をたてていた。

 あかねくんは脱力して大きなため息をついた。

(ったく、なんなんだ、この女は……。くそ、寝顔が可愛すぎんだろ)

 くるみの横に寝転がったものの、あかねくんは緊張と興奮で眠るどころではなかった。文字通り、くるみには手も足も出ない。

 悶々としてそのまま三十分ほどが過ぎた。あかねくんはキスくらいならしてもいいんじゃないかと迷っていたのだけど、とうとうくるみを裏切ることはできなかった。観念したあかねくんがくるみの寝顔に見とれていると、くるみがもぞもぞ動いて、

「ん……、亮さん……」

 と一言漏らし、ゆっくりと目を開けた。

「目が覚めたか、お姫さま?」

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