「つらかっただろうね」
「離婚のせいで経済的に苦しくなり、アパートを借りて引越しました。でもあたしは引きこもったままで、小学校の卒業式には出られず、中学にも登校できませんでした。それで田舎に住んでいる母方の親戚に預けられたんです。お母さんは都会に残って風俗嬢になりました。すこし遅れて中学生になったんですけど、学校で待っていたのは性的いじめでした。そのあとのことは、以前メールで書いたとおりです。あたしは上級生に輪姦され、ビデオを撮られました。先生からは『悪いのはお前だ』と言われました。強姦じゃなくて売春だったってことにされたんです。助けてくれないどころか、先生からもレイプされそうになって……。それでまた学校には行けなくなりました。ほかに頼れる人はいなかったから、お母さんの元に戻りました。あたし、中学には二ヶ月くらいしか通ってないんです。精神科のお医者さんにかかってかなり回復したので、いまは高校に通ってます。学校は楽しいですよ。実は同じ学校に好きな人がいるんです。このあいだ、その人に告白してもらえました。でも、あたしはどうしようもなく汚れてます。生ゴミなんです。だからお断りするしかありませんでした。それ以来、毎日がつらくてたまりません。生まれてきたことの罰を受けつづけるのはもうイヤです。死にたいです」
話し終えると、安堵とともに熱い涙がほっぺたを伝って流れた。感情が戻ってきて、体が震えた。ギリさんの肩に顔をくっつけて耐えた。
「ごめん、沙希ちゃん。知らなかった」
「あたしの方こそ。この話をしたのはギリさんが初めてです。聞いてくれてありがとう」
ギリさんはあたしをなだめるように肩をぽんぽんと叩いた。考え込むような様子で、あたしの体にまわした腕に力を入れた。それが何を意味するのか、あたしにはわかる。
「沙希ちゃん、きみのつらい気持ちをぜんぶ忘れさせてあげたい」
「あたしは汚いですよ」
「大丈夫。沙希ちゃんはちっとも汚くなんてない」
あたしはギリさんに抱きついた。
「ギリさんはあたしのお父さんと同じです。ギリさんも娘さんのことが憎いですか? その子が生まれてこない方がよかったですか?」
ギリさんがあたしを抱きしめた。
「つらい質問だね――。複雑な気持ちだよ。だけど、娘に出会えてよかったと思う。ぼくと娘が父娘としてすごした時間、気持ち、絆。それは本物だ。だから……」
だから、つらいんですね。
「ギリさん、あなたのつらい気持ちをぜんぶ癒してあげたいです」
あたしだけができる方法で。
「あたしもギリさんに癒されたいです」
ギリさんだけができる方法で。
「えっちなこと、していいよ。ギリさんにだったら抱かれたい」
そう言って、ギリさんの目を見つめた。ギリさんはやさしく見つめ返してくれた。
涙があふれてきて視界がぼやけた。目を閉じると、涙がこぼれた。
唇にギリさんの唇がそっと触れた。その唇は様子を見るようにすぐに離れた。
あたしは目を細く開けてギリさんを見た。
ギリさんがにっこり微笑んだ。つられてあたしも微笑んだ。この人なら安心できる。
ギリさんがふたたび唇を近づけてきた。目を閉じてキスされるのを待った。
ところが、ギリさんの唇はなかなか触れてくれなかった。すぐそばに気配を感じるのに。
不安な気持ちになりそうになった瞬間、唇が触れた。
触れるか触れないかの軽いキス。
もう離れたくなくて、自分から唇を触れさせた。
体の奥に安堵が広がって、子宮がうずいた。
ギリさんを招き入れるように、小さく唇を開いた。
ギリさんのやわらかい舌があたしの唇に触れ、やがて唇の間から差し込まれた。
そよ風のように舌先と舌先が触れ合った。
ゆっくりと時間をかけて、互いの舌の感触を確かめ合った。
また唇を離して。見つめ合って。微笑んだ。
そんなキスを何度も繰り返す。
キスがだんだん深くなり。
舌を絡め合い、唾液を混じり合わせる。
体の力が抜けていく。
体の奥に熱を感じ始める。
胸の奥がきゅんっとなった。
大切にされてる。
あたしのことをちゃんと考えてくれてる。
そう思ったとたん、あたしの体がピクピクと震えた。
キスでイカされたんだ。
そのまま何度もイカされて、頭の中が真っ白になった。
愛液があふれるのを感じた。胸が苦しくなるほどせつない。
[援交ダイアリー]
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