則夫さんが唇を噛んだ。
あたしの心がレオくんの言葉を受け入れるのを拒んでいた。
則夫さんがゲイ? ゲイってなんだっけ? 同性愛者? 則夫さんが? でも、あたしは女だよ? 女と結婚してるのにゲイ? レオくんは何を言ってるの?
部屋の空気が固まったように思えた。
なにか言わなきゃ。それであたしは、
「レオくんだって、あたしのことが好きだって言ったじゃない。前からあたしのことが好きで、だからあたしに近づいてきたんだって。声をかけてきたのもキスしてきたのもレオくんのほうなのに……」
そこまで言って口をつぐんだ。何を言ってるんだ、あたしは。こんなのぜんぶ言い訳じゃないの。
則夫さんが疲れきった表情であたしを見つめながら、レオくんに、
「お前が奈緒美を誘惑したのか?」
レオくんは少し楽しそうに、
「そうだよ。ノリちゃんに奈緒美さんの本性を教えてあげようと思ってね。案の定だったよ。奈緒美さんはとんでもない変態なんだ。アソコとお尻を何度も犯されて、ひぃひぃよがりながら、もっともっととねだってくるんだよ。フェラチオだってすごくうれしそうに奥まで咥えて。そうだ、奈緒美さんの初体験の話がまた傑作なんだ……」
「もう、やめて! レオくん、それ以上いじめないでよ」
あたしは耐えられなくなって悲鳴に近い声をあげた。
レオくんはあたしをせせら笑うと、則夫さんに、
「もうわかったでしょ? 奈緒美さんはノリちゃんを裏切ったんだ。ノリちゃんには男のひとのほうが合ってるよ。がんばって女のひとと付き合ってみようと思ったんでしょ? でも、このとおりうまくいかなかったじゃないか。もう無理しなくていいんだよ。男どうしの世界で生きればいいんだ」
「お前はどうなんだ、レオ。お前だって奈緒美と寝たんだろう? お前も昔は多くの女と付き合っていたじゃないか」
「ぼくは女なんか好きじゃなかったんだ! 言い寄ってくる女をいくら抱いても、ぼくの心は満たされなかった。まだ高校生だったぼくをノリちゃんが押し倒して抱いてくれたあの日まで。ノリちゃんがぼくに本当の愛を教えてくれたんだ」
則夫さんがあたしのほうを見やりながら、レオくんの言葉を制止しようとした。レオくんはかまわず続けて、
「それとも、ノリちゃんは女のひとがダメだから、代わりに男と付き合ってたの? 男が好きだからじゃなくて? ノリちゃんにとって、ぼくは女のひとの代用品だったの?」
「そうじゃない! 俺はお前を……」
則夫さんが途中で言葉を切って、あたしを一瞥し、
「お前を本気で愛していた」
あたしは則夫さんの言葉がよく理解できなかった。いや、さっきからのやりとりでうすうす感づいてはいたんだけど。でも……。
何も考えることができない。頭の奥が痺れたように感じる。体が重い。なんだかすごく疲れた。
不倫が夫にバレて修羅場が展開してるんじゃなかったっけ?
則夫さんがレオくんを愛していた……?
「じゃあ、どうしてぼくを捨てて奈緒美さんと結婚したの? はじめは奈緒美さんとは友情結婚なのかなって思ったけど、そうじゃないみたいだし。結局、本当は男より女のひとがよかったんだ」
「そうじゃない。俺は奈緒美が女だから好きになったんじゃない。好きになった相手がたまたま女だっただけだ」
則夫さんがレオくんと付き合ってた? ふたりは……ホモ?
もう、なにがなんだか……。
[新婚不倫]
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