車を降り、ショウマにうながされて家の中に入った。
「夕食はまだだろう?」
「いらない……。それより抱いてよ。思いっきり」
両手で自分を抱いてしゃくりあげる。ショウマにもたれかかるように体をくっつけると、それ以上何も言わずベッドルームに通してくれた。
照度をおとした間接照明が落ち着いた雰囲気を醸す寝室。その真ん中には大きなダブルベッド。この家には何度か連れてこられたことがある。ショウマに開発されてた頃、このベッドで繰り返し抱かれた。部屋の中はその頃と変わっていなかった。
ショウマはあたしと向かい合って立ち、どこが壊れたのか検分するようにあたしを見つめた。心の奥まで見通されているような感じ。まだしゃくりあげていたあたしは、さすがに照れてしまって、涙をぬぐいながらごまかし笑いをした。
それを待っていたように、ショウマは満足そうに微笑んだ。そして、あたしの帽子とポシェットを取ってそばにあったソファに置いた。
「沙希の望みどおり、この週末はずっと一緒にいてやろう」
そう言ってキスしてくれた。
また涙がこぼれ落ちた。これは安堵の涙だ。
ベストを脱がされ、スカートを床に落とされた。ブラウスのボタンをひとつずつ外されていくあいだ、うつむいてされるままになった。ショウマはブラウスを脱がすと、そのままブラジャーも剥ぎ取った。
あたしは腕で胸を隠した。泣いたせいで胸の奥がせつなくて、よけいにドキドキする。
ショウマはしゃがみこんでニーソを丁寧に脱がしてくれた。
そして愛液で濡れたパンツも。
「あいかわらず沙希の体はきれいだ」
立ち上がったショウマは自分も全裸になった。痩せているけど筋肉質で、あちこちに傷跡がある。カタギの人間ではないのだと思う。
力強い腕であたしをお姫様だっこすると、ベッドに運んで横たえた。
ショウマが体を重ねてくる。熱い体温を感じる。ショウマの胸板があたしの乳房を圧迫する。じっと見つめられる。憂いをたたえた深い瞳。ソフトなキス。そしてディープキス。舌を入れられる。吸い出され、甘噛みされ、絡め合う。アソコがジュンッとなる。
体に力が入らなくなる。軽いオーガズムを何度も繰り返し、最後には全身がピクピクしてショウマに抱きついた。
ようやく唇を解放され、深く息を吐きだして、ショウマの顔をうっとりと見つめた。
ショウマはそんなあたしの股間から愛液を指ですくって見せつけてきた。
「淫乱なメスガキめ。お前はとてもいやらしい体をしているな」
「もお、こんな体にしたのはショウマだもん」
甘えた声ですねてみせる。
「じゃあ、どんな体なのか、もうすこし詳しく調べてみよう」
ショウマはあたしの首筋に唇を這わせ、やさしく胸をもみしだく。肩を舐められ、鎖骨のあたりを舐められ、脇の下も舐められて、匂いまで嗅がれた。セックスするだけでも恥ずかしいのに、そんなことされたらまた泣いちゃうよ?
全身を愛撫されるにしたがって、だんだんと気持ちが無防備にされていく。心の服を一枚ずつ剥がされていくみたいに。泣くことしかできない赤子のように、すべてをゆだねて、依存しきって、甘えたい。
「ねえ、ショウマ……。初めてあたしに目をつけたときのことを覚えてる?」
「ああ。あの日、駅のホームにたたずむお前は、列車が来たらそのまま飛び込んでしまいそうな顔をしていた」
覚えててくれた。ショウマはほかにもいろんな子を開発してるはずだし、あたしだけが特別なわけじゃないから、印象に残ってただけでうれしい。
命の灯が消えるのを待つだけだったあの頃のあたし――。
通りすがりの見知らぬ男たちに犯されて路地裏に捨てられるか、汚いオヤジに二束三文で買われて慰みものにされるしかなかった中学生時代。とうとう頭がおかしくなってしまったあたしをお母さんが見かねて病院に連れて行った。通院をやめたあと、多少マシになったとはいえ引きこもっていたあたしに、お母さんが晴嵐の入学案内を持ってきた。けっこう偏差値の高い学校だ。どうしろというのかと思ったら……。中卒で無職のヤリマンより女子高生の方が高く売れる、だって。今のアパートに引っ越して、テストでいい点さえ取れれば入学できるから勉強しな、と言われて受験勉強をさせられた。売春するために受験する子なんてどこの世界にいるんだよ。まあ、けっきょく受かってあたしは女子高生の肩書を手に入れた。でも、これ以上、男たちのセックスのおもちゃにされるつもりはなかった。高校に進学したのは、あたし自身、中卒無職のヤリマンとして死ぬより、私立の進学校に通う女子高生として死ぬ方がすこしは格好がつくという見栄からだった。自殺する勇気はなかったけど、生きる気力がもう残ってなかった。どうせもうすぐ電池が切れる。そうしたら無理に自殺しなくたって、ぜんまいが切れたオルゴールが止まるみたいに、あたしの悪夢は終わるんだ。この世に未練なんてない。生まれてきたことがそもそも間違いだったんだし、生きていたっていいことなんて何もない。
だから、はやく終わってほしい――。そう思ってた。
[援交ダイアリー]
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