「確かにきみには恋の噂が絶えないようだけど、いつも節度ある交際をしてるんだと思うし、男の欲望に押し切られるような子でもないと思う」
「あたしと寝たことを自慢している三年の男子生徒だっていますよ」
「たぶんそれは、きみにふられた腹いせなんじゃないかな。ひどいヤツだよね」
実際にそのとおりだったので、わかってくれる人がいて真琴は少し溜飲が下がる思いだった。でも、いまはそんな場合ではない。
「先生が昨日の朝、図書室で操にいやらしいことをしてたのを、あたし知ってます。教師と生徒なのに。ずっと前から操と関係を持っていたんですよね」
真琴の非難に、矢萩は神妙な顔をした。
「確かに、俺は教師として許されないことをした。そのことについては、どれほど責められても反論はできない。ただ、俺は操に対してとても真剣な気持ちを持っている。軽い気持ちであの子を抱いたわけじゃない。できれば、それはわかってほしい」
「口先だけならなんとでも言えますよ。現に先生はこうしてあたしをラブホテルに連れ込んでいるじゃないですか!」
「俺はきみの担任でもあるんだ。もしきみが、セックスについて少しばかり行き過ぎたところがあるのなら、放ってはおけないよ」
本当は矢萩をラブホテルに連れ込んだのは真琴のほうなのだが、矢萩はそれを指摘したりしなかった。それに、あまり露骨な表現にならないように気を使っているようだ。
「でも……」
と、矢萩は続けた。
「どうやら、大友さんに関する噂は、ただの噂だったようだね。そうだとすると、わからないな。操とは大の仲良しのきみが、操と俺の関係を知ったうえで、どうしてこんなことをするのか。セックスの経験で友だちに先を越されたと思ってるの?」
矢萩の口調には包み込むような優しさがあった。ラブホテルに教え子と二人きりでいる、ただそれだけで教師として致命傷になるというのに。
真琴は返答せず、唇を噛んだ。
「先生はあたしとセックスしたくないですか?」
「俺は操と付き合ってるんだ。操のことを愛している」
うそだ。
「セックスしたいかどうかを訊いてるんです」
「きみとはできない」
うそ、したいくせに。
「操とはしたじゃないですか。少女が好きなんでしょ」
「俺が好きなのは操だけだ」
「そんなのうそだ。好きじゃない子とでもセックスしたくなるでしょ。男なんだから」
そう言いながら、真琴は興奮して矢萩の胸を叩いた。
「ああ、したいよ。大友さんともセックスしたい。でも、しない」
矢萩は真琴の肩を両手でつかんで、真琴を引き離そうとした。
「放してよ」
思わず真琴はスタンガンを求めてバッグの中をまさぐった。そのまま後ずさるとベッドにあたってバランスを崩し、仰向けに倒れこんだ。とっさに矢萩が手を伸ばして真琴を支えようとしたので、つられて矢萩も前のめりになり、結果的に真琴をベッドに押し倒してしまった。
真琴はぎゅっと目を閉じて、全身を縮こまらせた。
けれど、抵抗しようとはしない。なんだか体に力が入らないのだ。
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