口の中に押し込まれていた舌が出て行った。
彩香は粘液とよだれを口から垂らしながら咳き込み、酸素を求めてあえいだ。
「ああっ……、あうっ、ああっ、あぁぁぁっっ!」
声を出せるようになると、彩香は悲鳴に近いよがり声をあげた。
それが引き金になったかのように、全身が快感につつまれた。
背中を大きくのけぞらせて、手足を硬直させる。
呼吸ができなくなり、声も出せなくなる。
頭の中が真っ白に飛ぶ。
体じゅうの細胞がはじけたように感じた。
これが『イク』ということなのか。
突然、力が抜け、彩香はぐったりとなった。
体はまだ快感の余韻に打ち震えている。
「彩香……、彩香ぁ……」
自分を呼ぶ声に、彩香はぼんやりと目を開けた。すぐ目の前で美緒が触手にからまれた体をもぞもぞさせながら、あえぎ声をあげていた。
何本もの触手が蛇のようにからみつき、その先端の舌が美緒の全身を舐めていた。
「美緒……」
彩香は美緒が自分に声をかけているのではなく、うなされるように名前を呼んでいるだけだと気づいた。
レズビアンであることを打ち明け、彩香に恋愛感情を抱きつづけていたことを告白した美緒。その美緒が性的快感にむせびながら彩香の名を呼んでいるのだ。いまの体勢からすると、美緒は彩香と正常位で交わっているところを想像しているにちがいない。どう受け止めていいのかわからなかった。
突然、美緒が全身をピクピクと震わせ、背中を反らせてうめいたかと思うと、全身の力が抜けたようにぐったりとなった。
美緒の両手を縛っていた触手がほどけ、両腕が彩香の方に垂れ下がった。解放されたわけではない。触手は機械のように手際よく美緒の体を伸ばすと、両腕を左右に広げさせ、脚を伸ばした姿勢で縛り直した。今度は十字架にはりつけにされたような形だ。
同時に彩香を捕らえていた触手も緩んだ。両手を左右に開かされ、脚をやや開かされた姿勢で仰向けに体を伸ばされた。
触手が縛り方を変える隙をついて、彩香は左手を伸ばして美緒の右手を取った。
美緒の手がかすかに握り返してくる。
「美緒……」
どんな言葉をかけていいのかわからない。この状況で『しっかりして』というのは酷だ。『大丈夫だから』というのは無責任だろう。
ふたたび触手に縛り上げられて、手が離れてしまった。それでも美緒が気づいて彩香の方を見た。放心した顔にかすかな笑みが浮かぶ。彩香も笑顔を返した。
ひとりじゃなくてよかった、と思った。その瞬間、美緒に言える言葉がひとつだけあると思った。
「美緒……、いっしょにいるから……」
「うん……、彩香……」
美緒の顔に生気が戻った。
そのとき、新しい触手が何本も伸びてきて、大蛇のようにふたりを取り囲んだ。
触手は威嚇するように彩香と美緒の顔の前で止まった。見ていると、先端が裂けるように広がって、光沢のある中身がナイフのように飛び出した。赤黒くツルツルした質感で、内蔵じみた無気味さがある。どこか豚のレバーを思わせた。ソレは見る間にふくらみ、にゅうっと伸びた。サイズが二倍ほどになると同時に、丸い先端部分の色がほとんど黒といってもいいほど濃くなった。硬直しているのが見た目でわかる。ギチギチと音を立てているかのようだ。
ほかの触手からもつぎつぎと黒い中身が飛び出した。
「きゃあぁぁぁっ!」
美緒が悲鳴をあげた。
彩香も不安を覚えて唾を飲み込んだ。
コレとそっくりなものを何度も目にしたことがある。
男根だ。
ただし、かつて彩香に挿入された三本より、ひとまわり大きい。
長く、太く、カリ高で、黒かった。
それだけではない。サオの部分には荒縄を思わせる凹凸があり、しかもそれが波打つように動いている。ところどころに大粒の真珠ほどのイボイボがあり、それもまた出たり消えたり、位置を変えたりしていた。
黒い男根は彩香に見せつけるようにS字にくねった。
人間の男のモノには不可能な機能。
間違いない。コレは女をイカせるためだけにあつらえられた器官なのだ。
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