お兄ちゃんと恋のライバル (10)

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あたしは優姫さんの様子を見た。藤林さんやなごちゃんさんとおしゃべりしながらも、手際よく作業を進めていた。湯煎で溶かしたチョコレートに、さっき丸めていたチョコを浸してコーティングしている。コーティングの上からナッツでトッピングしたり、色の違うチョコで模様を付けたりして、いろんなバリエーションを作っていた。

うきうきしているように見えた。あたしは焦燥を覚えた。

「なんだか、みんな優姫さんのことを応援してるんですね」

あたしは高梨さんに話しかけた。冷静に言ったつもりだったけど、思ったよりずっと不機嫌な口調になってしまった。

「友だちだもの。ライバルでない限りは互いの恋を応援するわよ」

「もし、ライバルだったら?」

「もちろん叩き潰すわね。友情より恋愛が優先に決まってるじゃない」

高梨さんは面白そうに言った。

「西村さんは、お兄さんを取られちゃうかもって心配なのね?」

「そそそ、そんなことありありありませんよ!」

あたしはむすっとして、うつむいたままチョコをかき混ぜた。

あたしだってお兄ちゃんのことが好きなんだ。お兄ちゃんの恋人になりたいんだ。だけど……。

あたしはふたたび優姫さんを見た。真剣な表情でチョコを一粒仕上げるたびに、満足そうににっこりする。お兄ちゃんにチョコを渡すときのことを想像しているのだろう。

お兄ちゃんを取られちゃうかも……。

あたしは気持ちが沈んでいくのを感じた。

あたしが黙々とチョコをかき混ぜていると、藤林さんがあたしに話を振ってきた。

「ねえねえ、西村妹の彼ってどんな人?」

「あー、聞きたーい」

高梨さんもはやしたてた。まあ、こういう展開は予想していたけど。

「いや、彼なんかじゃなくて、片想いなんですけど……」

「同じ学校の子?」

「そのう、なんていうか、年上の人で、でもやっぱり中学生なんか相手にしてくれないというか」

「ということは高校生なんだ。やるねぇ」

うわぁ、そうきたか。余計なこと言っちゃった。学校の先輩とかって誤魔化しておけばよかった。

「それにしても、ここにいるヤツらは報われない恋ばっかりだな。そんな女子中学生にひとつアドバイスをさしあげてよ、高梨部長。あ、高梨ってね、社会人の彼氏がいるんだよ。十歳くらい年上なんだっけ?」

「十三歳上よ。いま三十歳の会社員」

「大人の人と付き合ってるんですか!?」

あたしは思わず大きな声を出してしまった。三十歳って、年上というのにもほどがあるんじゃないでしょうか。

「高梨の場合、大人の人っていうか、大人の関係、ていうの? 愛欲の日々に溺れるただれた関係なんだよな。半同棲で毎日してるんだって? つーか、それ犯罪じゃね?」

「もう、中学生の女の子相手になに言ってるの。それに真面目な恋愛なら肉体関係があっても犯罪にはならないんだからね」

「いや、婚約してないと有罪だろ」

「するもん! 婚約」

に、肉体カンケイ?

あたしは、高梨さんの言葉に動転してしまった。お兄ちゃんとあたしがニクタイカンケイに……。そんな妄想をしてしまったのだ。急に息苦しくなった。

お、お兄ちゃんとあたしが……、セックス……。ああ、いやーん!

「コラッ、中学生相手になに生々しいこと言ってんだ」

優姫さんが高梨さんをたしなめた。

「まりもちゃんも赤くなってないで、はい、ボールを冷水につけて」

あたしは言われるままに、湯煎のボールを準備してあった冷水につけた。まわりの女子高生たちがエッチな話で盛り上がり始めたので、あたしは恥ずかしくて、聞かないふりをした。

みんないろんな恋愛に胸を焦がしているんだな。そう思った。好きになってはいけない人を好きになってしまい、その気持ちをそっと胸にしまっている人。自分の気持ちを伝えたのに受け入れてもらえず、それでも好きという気持ちを捨てきれない人。周囲からはきっと好奇の目で見られているだろうに、好きな人と両想いになれて毎日のように彼氏とえっちしている人。

男の子なのにあたしのお兄ちゃんに恋をして告白しようとしている優姫さんと、妹なのにお兄ちゃんを好きになってしまって苦しんでいるあたし。

あたしはどうすればいいんだろう。

あたしの気持ちは本当に恋なんだろうか。

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