ネヘミヤ記2:11-20

城壁の立て直し

(参考)エルサレムは、高い城壁に囲まれた街です。城壁が壊れているならば、見栄えや往来に支障があるだけではなく、賊や工事の邪魔立てする者から身を守ることもできません。以下の記事を見ると、ネヘミヤが到着するまで、城壁や城門は、カルディア人(バビロン人)に壊されたままのようです。

列王記下『25:9 主の神殿、王宮、エルサレムの家屋をすべて焼き払った。大いなる家屋もすべて、火を放って焼き払った。25:10 また親衛隊の長と共に来たカルデア人は、軍をあげてエルサレムの周囲の城壁を取り壊した。』(歴代誌36:19も同様の記事)


1.城壁を調べる

 ネヘミヤは、エルサレムに着いてから、3日たって、動きます。もともと王様には「城門を直す」と言っていますが、不用意にそのことを口には出さなかったようです。BC515年ころには神殿が再建されていますが、BC444年ごろネヘミヤがエルサレムに入った時には、城門も城壁も壊れたままです。エズラは、祭司ですし、キュロス王からは神殿の再建までしか許可されていません。ですから、その先は何も進まなかったわけです。

 ネヘミヤは慎重でした。なぜなら工事に携わる役人は、これまでも神殿の再建を邪魔してきた人々だからです。今のエルサレムの旧市街と比べて範囲は狭いですが、城壁にそって左回りに全体を調べるわけですが、役人たちに見つからないように、夜に少ない人数で調べました。どの範囲の工事が必要なのか? そして今いるメンバーで成し遂げるにはどのくらいの期間がかかるのか? このくらいは把握したうえで、工事関係者に指示をしなければ、逆らおうとする人々がいる中では、うまく事が運ばないはずです。

 エルサレムの城壁は、石を積み上げて作られていました。普通に考えると、石垣を壊す方法は外側から破城槌で叩いて、崩すことになります。街を攻撃するだけであれば、城門一か所か城壁一か所を壊せば、それで十分なのです。しかし新バビロニア帝国は、徹底して城壁の全周を壊しています。ですから、乗っていた動物(ロバ?)が通れないほど、大きい石が大量に転がっていたわけです。新バビロニア帝国は、ユダの国の象徴である、神殿と王宮に加えすべての家屋を焼き払いました。そして、エルサレムの高い城壁もエルサレムの象徴でした。石の落ちていたのは石垣の外側です。意図して街の方から外側に石垣を崩したのか、根こそぎ崩したのだと思われます。そもそも、戦いに勝った新バビロニア帝国は、エルサレムを活用するならば、街を守る必要があります。それが、守るどころか破壊しつくすと言うことは、ユダの国の誇りを傷つけることが目的であります。また、人も物もない街には用がなかったことがわかります。

 さて、城壁を調べたネヘミヤは、どうやって役人たちにこの再建工事をしてもらうのかを思案します。もちろん、中途半端に提案してしまっては、王様の許可が下りているとはいっても、反発されるだけだからです。神様は、王様を動かしてネヘミヤの思いの通りエルサレムの城壁の再建する段取りを進めました。しかし、それだけでは現場は動かないのです。工事には多くの人々がかかわります。ネヘミヤは、「ユダの人々にも、祭司にも、貴族にも、役人にも、工事に携わる他の人々」にも、何も言わないでいました。それは、それぞれの立場で、城壁が復元されることを歓迎しているか、もしくは説得しつくさないと、この工事に反対する人々の意見や実力行使の前に工事が邪魔されてしまうからです。

 それでも、ネヘミヤは王様の許可を取った時と同じように神様に祈ったのでしょう。説得することを決断しました。

2.再建のための説得

 ネヘミヤは決断を固めると、関係者に考えていることを打ち明けます。

『御覧のとおり、わたしたちは不幸の中であえいでいる。エルサレムは荒廃し、城門は焼け落ちたままだ。エルサレムの城壁を建て直そうではないか。そうすれば、もう恥ずかしいことはない。』

 この言葉は、ユダの民を説得するものです。祭司、貴族、役人は 新バビロニアとの関係から反対することが考えられますが、ユダの人々の気持ちが一致すれば、乗り越えられると考えたのかもしれません。

「すっかりみすぼらしい格好になってしまったユダの都エルサレムを恥ずかしくないように建て直したい。」との考えは、ユダの国を誇りにしている人々には共通です。王様を説得した時と同じように、その話を聞いたユダの人々は、「早速、建築にかかろう」と応じました。同意したというよりも、大変喜んでそして励まされたのです。その陰には、滅ぼされたユダの国の再建を願う気持ちがあったからです。

 ところが、反対する人が出てきます。

ホロニ人サヌバラテとは、アケメネス朝ペルシャ帝国のサマリヤ地方の総督です。つまり、エルサレムを管轄する総督なわけです。その任務は、当然ながら破壊しつくしたユダの国が復活しないように抑えることです。ですから、城壁を再建することは「王への反逆」であると受け取めました。

 トビヤとは、イスラエルの名家の一つです。アンモン人の土地に住み、アンモン人との婚姻によって血のつながりを持っていました。イスラエルの民ではあるものの、アンモン人の下についていました。アンモン人とトビヤは、ユダの地に富と地位を築きました。ですから、アンモン人もトビヤも、ユダの国が復活することは許すわけがありません。本来なら、民族的には神殿再建に協力すべきトビヤでありますが、自分の利益のために、再建工事に反対し、邪魔をしてきていたのです。

ネヘミヤは信仰をもって反論します。『天にいます神御自ら、わたしたちにこの工事を成功させてくださる。』