創世記4:17-26

神の憐れみを受けて


1.カインの末裔

『4:17カインはその妻を知った。彼女はみごもり、エノクを産んだ。カインは町を建てていたので、自分の子の名にちなんで、その町にエノクという名をつけた。』

ノド(さすらいの地)に住み着いたカインは、そこで妻を得ます。一説によると二子の妹ルルワがカインの妻となります。聖書には書かれていませんが、他にも多くの子供がいたようです。「町を建てた」とありますから、カインにも町を建てるくらいのこどもたちがいたということです。

 さて、カインはその妻を知り、子供を設け、「エノク」という名をつけました。意味は「開始する」です。また、町の名前もエノクと名付けました。家も町も、やり直しの人生が始まったわけです。

カイン-エノク-イラド-メフヤエル-メトシャエル-レメク(アダ)-ヤバル 家畜を飼い天幕に住む者

                                -ユバル 竪琴や笛を奏でる者

                           (ツィラ)-トバル・カイン 道具を作る者

                                -ナアマ(妹) 

 レメクはふたりの妻をめとったとあります。ひとりはアダで、もう一人がツィラです。これがカインの末裔の家族の形になりました。神から離れた者たちの結末でしょうか? レメクは一夫多妻制の原型となったのです。天地創造のときから、一夫一婦の制度が始められていて、神聖なものと言えます。しかし、神様から離れたカインの末裔は、神様の作った摂理を無視して、二人の妻を持つ自儘な生き方をしようとした姿がうかがえます。

 さて、20節を見ると、この二人の妻のうちアダはヤバルとユバルを、そしてツィラはトバル・カインを産みました。ヤバルは天幕に住む者となり、家畜を飼う者、すなわち畜産に従事する者の祖先になりました。そしてユバルは竪琴と笛を巧みに奏でる奏者、すなわち音楽演奏者の祖先、そしてトバル・カインは青銅と鉄のあらゆる用具を作る鍛冶屋の祖先となりました。いわゆる文明が起こっているわけです。

 神様に背く者たちがこのような文明を起こしていますが、文明は神様から与えられた恵みでありますから、罪人がその発展にかかわったとしても、文明そのものは神様に逆らっているわけではありません。文明は、人間の生活を潤すものであり、自然と社会に対して人間がなす善なる活動とその成果なのです。そして、カインの末裔が文明に貢献しているのに対し、セトの家ではその記載がありません。イスラエルは、文字が出来るのも遅く、鍛治にしても、鉄を造ることが出来ませんでした。つまりセトの血筋は、文明的に遅れていたのです。

2.レメクの歌

 『4:23さて、レメクはその妻たちに言った。「アダとツィラよ。私の声を聞け。レメクの妻たちよ。私の言うことに耳を傾けよ。私の受けた傷のためには、ひとりの人を、私の受けた打ち傷のためには、ひとりの若者を殺した。カインに七倍の復讐があれば、レメクには七十七倍。」』

 これは、レメクがその妻たちに言ったことば(歌)です。レメクは、このとき大変なものを手に入れていました。トバル・カインが造る、武器(鎧、鎖など)です。レメクの打ち傷のために一人を殺し、殴った若者も殺したことを自慢げに歌っています。神様は、カインを追放するときに、「カインを殺したら7倍の報復」を約束しました。それを受けて、「レメクを傷つけたら77倍、レメク自身が報復する」と宣言しました。経済力と武力が備わったとき、レメクは、神以上の存在になったとの宣言をしたのでした。

3.主の御名によって祈ったセト

『4:25 再び、アダムは妻を知った。彼女は男の子を産み、セトと名付けた。カインがアベルを殺したので、神が彼に代わる子を授け(シャト)られたからである。』

 カインの末裔レメクに対して、もう一つの血筋が現れます。それが信仰の血筋、セトです。

 先にアベルを失ったアダムとエバは、兄カインも追放によって失いました。この悲嘆に暮れていた家庭にも、新しい喜びが訪れます。「セト」の誕生です。「セト」とは「基礎」という意味です。おそらく、アダムとエバは新しく与えられた子どもとその子孫を、この血筋の基礎に据えようとしたのではないかと思います。

 セトこそアベルに代わるべき者であり、アダムの正当な血筋とすべき者と考えたのです。それがこの部分からも読み取れます。

『カインがアベルを殺したので、神が彼に代わる子を授け(シャト)られたからである。』

 アダムの跡を継ぐのがこのセトです。セトにも子供が生まれたとき、その子はエノシュと名付けられました。ここで突然解説が入ります。

『主の御名を呼び始めたのは、この時代のことである。』

直訳では、「その時、人々はヤハウェの名を呼び始めました」となります。意訳すると「その時から、人々はヤハウェを礼拝する(主に祈る)ようになりました。」と言うところです。

 エノシュは、赤ん坊ですから、祈ったのはセトなわけです。セトこそが、アダムを継ぐべき者、信仰の継承者となるべき者として、神が与えてくださったのです。そしてやがてこのセトの血筋からアブラハムから始まるイスラエル民族が、そして、イエス・キリストにつながるダビデの家が出てくるのです。

 自分の町を建て、物欲に生きようとしたカイン。レメクの血筋に対して、神様はアダムを引き継ぐ信仰の血筋として、ここにセトを備えてくださったのです。そして、セトは主の名によって祈りました。レメクが傲慢不遜にも神様に背中を向けていた時に、主の御名によって祈り始めたのです。この血筋こそが、イスラエルを祝福に導き、そして救い主イエスキリストを齎したのです。