ダニエル書6:10-29

獅子の洞窟の中で

 

1.大臣たちのたくらみ

 『6:5 大臣や総督は、政務に関してダニエルを陥れようと口実を探した。しかし、ダニエルは政務に忠実で、何の汚点も怠慢もなく、彼らは訴え出る口実を見つけることができなかった。6:6 それで彼らは、「ダニエルを陥れるには、その信じている神の法に関してなんらかの言いがかりをつけるほかはあるまい」と話し合い、6:7 王のもとに集まってこう言った。「~王様に次のような、勅令による禁止事項をお定めいただこうということになりました。すなわち、向こう三十日間、王様を差し置いて他の人間や神に願い事をする者は、だれであれ獅子の洞窟に投げ込まれる、と。』


 大臣や総督は、ダニエルを陥れることを考えました。王が、すべてをダニエルに任せるために、大臣や総督には、面白くなかったのでしょう。しかも、ダニエルの命を狙うようなことをたくらみます。「ダニエルの信じている神様の法に対し、ダニエルは反することは絶対しないだろうから、どんな禁令が出ても、神様を礼拝するだろう」という前提で、王に禁令を出してもらいます。しかも、禁令を破ったら、「獅子の洞窟に投げ込む」というものでした。大臣たちがその文書を作りますので、王はサインだけですから、おだてられてよく考えずにサインをしてしまいます。ここに罠があるのですが、ペルシャやメディアでは、古来から王の命令は覆らないのです。ダニエルが禁令を破ったことを知った後に、王がその禁令を取り消すことはできずに、ダニエルをそのまま獅子の洞窟に送ることになってしまいます。

2.ダニエルの対応と王の悩み

 ダニエルは、禁令を知っていましたが、特に普段とは変わらずに、イスラエルの方向に向かって日に三度賛美を捧げました。当然大臣たちは、ダニエルの家に来て見張るわけですが、さっそく礼拝しているダニエルが祈っているところを見届けて、王に言いつけます。ダニエルは、たぶん禁令は大臣たちのたくらみであることを知っています。しかし、そのたくらみに動じないで、いつものように神様の礼拝を守りました。捕まることも承知だったのです。やはり、獅子の洞窟に入れられても神様に守られるよう、祈ったのでしょう。

 王は、ダニエルが禁令を破ったことを知らされ、大変悩みました。大臣たちに引っ掛けられたのがわかったのですが、一度出された王の命令は取り消しも、変更もできないのです。日暮れまで悩んで、ダニエルを獅子の洞窟に放り込むように命令しました。王も「ダニエルの神様が守ってくれるかもしれない」と思っていたのでしょう。ダニエルのことをあきらめずに、大変心配しながら、一夜を過ごしました。

3.獅子の洞窟から出る

 王は、翌朝不安そうな面持ちで、獅子の洞窟に向かいます。

王:「ダニエル、ダニエル、生ける神の僕よ、お前がいつも拝んでいる神は、獅子からお前を救い出す力があったか。」

ダニエル「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。6:23 神様が天使を送って獅子の口を閉ざしてくださいましたので、わたしはなんの危害も受けませんでした。神様に対するわたしの無実が認められたのです。そして王様、あなたさまに対しても、背いたことはございません。」


王もダニエルも、ダニエルが無事であることを願ったし、神様がそのようにしてくれると思っていたことがわかります。ダニエルが言うには、神様に罪を犯していなければ神様はダニエル自身を守ってくれるとの確信があったようです。また、ダニエルは、王様に対しても、背いていないと言います。しかし、禁令には背きました。大臣たちがダニエルを陥れるために意図して作られた禁令には背きましたが、王の意思に背いたわけではないことをダニエルは王に言ったのです。

 王は、喜んでダニエルを引き出し、ダニエルを陥れた者と家族を獅子の洞窟に投げ込みます。すると、今度は獅子たちは、飛びかかりました。神様はダニエルだけを守ったのです。

また、王は勅令を出します。これも、取り消すことのできない命令です。

『いっそうの繁栄を願って挨拶を送る。6:27 わたしは以下のとおりに定める。この王国全域において、すべての民はダニエルの神を恐れかしこまなければならない。この神は生ける神、世々にいまし/その主権は滅びることなく、その支配は永遠。6:28 この神は救い主、助け主。天にも地にも、不思議な御業を行い/ダニエルを獅子の力から救われた。』

 ユダヤの神様を礼拝することを認められました。30日の時限法で礼拝を禁止していましたが、30日を過ぎてこの勅令が出たのであれば、法律の取り消しにはなりません。ですから、礼拝が保証されたのです。