ルカ2:1-21

 イエスの誕生 

 史実から言うと、この地域で住民登録を行ったのはクレニオ(紀元前12年からパレスチナの司令官)でした。アウグストゥスが紀元前8年に出した人口調査命令にもとづく住民登録は、この地区まで実施されるには数年を要し、紀元5年頃に実施されたものと考えられます。また、イエス様が生まれた年はAD1年と思う人が多いかもしれませんが、西暦(AD530年頃、神学者ディオニシウス・エクシグスによって考案)を新約聖書を根拠に作ったときに、計算ミスをしたというのが定説です。実際の人口調査は、AD6-7年とされています。


1.イエスの誕生

 イエスの誕生は「ベツレヘム」ということが旧約聖書のミカ書5:2に預言されています。福音書を書いたルカは、テオフィロという名のローマの高官にこの福音書を献呈しています。「順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。」と書いている通りに、ルカはベツレヘムにイエス様が生まれるまでの経緯を順序正しく書いたのだと思われます。特に、ナザレの人がベツレヘムで生まれた経緯は、大事だったと思われます。また、イエス様の誕生の予告後、最初に登場するのがローマ皇帝アウグストゥスです。ローマ皇帝は、ローマの主(κύριος)であり、ローマに戦争の無い平和(είρήvη)をもたらしました。ですから、アウグストゥスは、ローマにとって救い主(σωτηρία)なのです。イエス様が、主(神、キリスト)であり、平和の君であり、救い主であります。アウグストゥスは、力でその称号を得ましたが、イエス様は愛と十字架の犠牲によって私たちを救われた神様であります。くしくも、救い主と呼ばれるローマ皇帝が、税金徴収のための住民登録(=人口調査)の命令を出し、それぞれが出身地で登録しなければならなかったことから、ベツレヘムにイエス様が生まれることになります。そして、力の象徴であるローマ皇帝から本当の救い主へ、主が交代することが、ここで象徴的に表わされています。

 ベツレヘムの町に着いて、宿をとることが出来なかったので、イエス様は飼い葉おけに寝かされました。

聖書にはこれ以上の情報がないので、馬小屋に生まれたなどと言うのは、のちの世の創作だと思われます。少なくとも、宿屋でもなく、人の家でもないところで、出産したことはわかります。救い主であるイエス様が、飼い葉おけに寝せられるという、普通ではない貧しさの中に降ってこられたのです。まさに、イエス様は、君臨するためにこられたのではなく、貧しい者、弱い者に仕えるために、この世に来てくださったのです。


2.羊飼いと天使

 場面は、ベツレヘムの野原になります。

 羊飼は、経済的には底辺の仕事になります。当時のユダヤ人社会では、進んで払う神殿の税金と、いやいや払うローマの様々な税金がありました。羊飼いは、その神殿税さえ支払うことが出来なかったそうです。そういうこともあって、一般のユダヤ人からは羊飼いは見下されていました。この貧しい羊飼いのところに、神様の栄光がきたのです。天使が現れ、彼らは恐れました。

天使は言います。

『恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。2:11 今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。2:12 あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。』

 この喜びの知らせこそ、「福音」(善き知らせ:Good News)と呼ばれているものです。それはユダヤ人たちが長いこと待ち望んでいたダビデの子孫であるキリスト(メシャー:油を注がれた者)が、生まれたという知らせです。そしてその後に天の軍勢、つまり無数の天使が叫び、賛美します。

『2:14 いと高きところには栄光、神にあれ、/地には平和、御心に適う人にあれ。』

 「いと高きところ」とは、神様のいる場所つまり天の国を指します。「地」とはこの地上のことを指します。同じように、この2行の文は対になっています。

いと高きところ には 栄光、 神に       あれ、

地       には 平和、 御心にかなう人に あれ。

 キリストが生まれ、そして成就するのがこの賛美です。キリストが全ての人の罪のために死んでくださり、私たちの罪を贖ってくださった。それは、天におられる神様であるキリストの栄光の業です。そして、この地上にあるキリストを信じ、キリストに従う者には、平和がもたらされるのです。

 神様は、貧しく、卑しめられている羊飼いたちに対して、このような栄光をお見せしました。この世界の最もすばらしい出来事を、神様はこの国の有力者に見せるのではなく、貧しくて、卑しめられている羊飼いにだけに知らせたのです。 

 これを見た羊飼いたちは、話し合いました。

『さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか』

 そもそもベツレヘムは小さい町なので、羊飼いはヨセフとマリアをみつけました。羊飼いの話を聞いた人々がみな驚きました。けれども、マリヤはすべて心に納めました。そして、天使から告げられたとおりに7日後(8日目)の割礼の時にイエスと名付けたのです。