1:1-25

 ヨハネの誕生予告 

 

1.献呈の言葉 

 ルカによる福音書は、この献呈の言葉を見ると、テオフィロ閣下に宛てられています。この人について、何処のどんな人なのかもわかりません。これを書いたルカは、使徒言行録も書いたとされています。それは、献呈文の共通性などから、そのように言われているものです。ルカは、パウロの伝道旅行に同行していましたので、その伝道旅行中、またはローマの獄中で、パウロの指導を受けた可能性があります。そして、ルカによる福音書にはイエス様の生涯が書かれ、使徒言行録には聖霊の働きがまとめられているわけですから、キリスト教の福音そのものであります。この福音を届ける相手は身分の高い人物と読めますが、テオフィロが「神の友」という意味であることから、ルカによる福音書の読者のこと とも受けとれます。


『1:3 そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。』


 ルカは、パウロの書簡を多く保存していました。また、パウロと同行していたわけですから、パウロの語る福音を十分に理解したうえで、ルカによる福音書にまとめたわけです。そういう意味で、ペトロの弟子が書いたとされるマタイによる福音書や、使徒ヨハネが書いたとされるヨハネによる福音書とは異なり、マルコによる福音書をベースとしてパウロ側の教えが味付けされていると考えるとよいでしょう。


2.バプテスマのヨハネ誕生の予告

 『1:5 ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた。その妻はアロン家の娘の一人で、名をエリサベトといった。』

ユダヤの王ヘロデ(ヘロデ大王)は、そのころユダとサマリアそしてガリラヤを領土とする王様でした。アビヤと言うのは、ダビデが祭司を24の組に分けた時の、8番目の籤にあたった組長の名前です。(代上24:10 )ヘロデの時代、祭司は24の家で一万八千人くらいいたわけです。割り算してみると、一組が750人。ザカリアとその妻エリザベトもアロンの子孫です。すばらしい血筋で、非の打ちどころのない二人だったのですが、この二人は子供が無いまま年を取ってしまったのです。

 祭司には、当番がありました。年に3回ある祭りの日には祭司全員で対応しますが、それ以外の日は、2週間の奉仕を年に2回、つまり年に28日のお勤めがあって、香をたくくじに当たるのは28人と言うことになります。ザカリアは一生に一度くらいしか当たらないくじに当りました。これは、神様がザカリヤを選んだことを示します。神様がザカリアにこの機会を与えたのは、エリサベトが男の子を産むことを告げさせるためでした。

 天使は、ザカリアとエリサベトの子の名をヨハネとするように指示します。そして、天使はバプテスマのヨハネに与えられた使命を語ります。それは、イエス様が来られるための準備のことです。(1:15~17)

ここで、天使は「エリヤの霊と力」という言葉を使いました。エリヤはモーセと並ぶ偉大な預言者です。

そして、エリヤは救い主を迎える前に、遣わされる(マラキ3:23)と言われています。エリヤが道をまっすぐにするために派遣されるという預言は、そのまま、救い主イエスキリストが来る前にエリヤであるバプテスマのヨハネが来るという、新約聖書の理解につながります。

 しかし、ザカリアはその天使の告知を、受け入れませんでした。そして、『わたしは老人ですし、妻も年をとっています。』と言います。すると、天使ガブリエルはザカリアをそのことが起こる日まで口がきけなくすると宣言してしまいました。天使の伝えた言葉をザカリアが信じなかったからです。

 すると、ザカリアは口がきけなくなり、だいぶ時間がたってから聖所から出てきました。身振り手振りでしか、意思を伝えることが出来ません。そんなザカリアの口がきける様になったのは、エリサベトが子を産み、その子の名前をヨハネと名付けた時でした。こうして、バプテスマのヨハネは、イエス様の少し前にこの世にやって来ました。また、天使の告知を信じなかったザカリヤも赦されたのです。

 一方で、不妊の女とされていたエリザベトは、祝福されました。そしてこのように言います。

『1:25 「主は今こそ、こうして、わたしに目を留め、人々の間からわたしの恥を取り去ってくださいました。」 』