使徒7:54-60

ステファノの殉教

  

イスラエルの民は、先祖のアブラハムのときから神様に逆らってきました。そして、今(ステファノが最高法院で裁判を受けているとき)も変わらず逆らっているのです。耳の痛いことを言う預言者はイスラエルの先祖たちが迫害してきました。そして、あの正しい方イエス・キリストが来られることを預言した人々を殺してきました。そして、あなた方がイエス・キリストを殺す者となった。天使を通して律法を受け、律法を学んできたあなた方なのに、あの正しい方を殺して、律法を守らなかったのです。

 

 最高法院で偽の訴えに対して弁明を求められたステファノは、弁明などせずにこの様な説教をしました。この国で最も宗教的な権威のある人たちに向けてです。ただでさえ、学問のレベルが高い人たちに物申す失礼さがあります。

さらには

「神様に逆らう大祭司、議員、律法学者たち。あなた方が、罪のないイエス様を殺した」

と主張したのですから、聞いていた人々は怒りました。

「論語読みの論語知らず」という言葉が日本にはありますが、「律法学者、大祭司の 律法知らず」と「律法学者、大祭司の律法違反」ということを説教したわけですから、怒らないわけがありません。「彼らが大事にしてきた律法を守っていない」と、律法学者や大祭司の存在そのものを全否定されたからです。

 

 ステファノは、ますます聖霊に満たされると、天の神様の右にイエス様が立ってられるのが見えました。そして、

『天が開いて、人の子が神の右に立っておられるのが見える』

とありのまま見えたそのままを言いました。

 

これは、「イエス様は神の子である」と言ったことになります。そして、「神の子を殺したのはあなた方だ」との訴えでもあります。これは、「あなた方は神に逆らった」との主張ですから、人々は慌てました。

 

『7:57 人々は大声で叫びながら耳を手でふさぎ、ステファノ目がけて一斉に襲いかかり、7:58 都の外に引きずり出して石を投げ始めた。』


このように、裁判での訴えを止めてしまい、問答無用でステファノを死刑にしたのです。死刑の権限は、ローマから派遣されている総督にしかありません。そんなことは、よく知っていながら、一気に私刑に及んだのです。

それでも、殺生を禁止されている神殿の外に連れ出す冷静さは、あったようです。また、イエス様が「冒とく罪」とされたルカの記事から見て、このステファノの証言は、充分に「冒とく罪」にあたります。しかし、その判決も無しに、そしてローマの総督に諮ることも無く、即刻の死刑がおこなわれたのです。


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(参考)ルカ『◆最高法院で裁判を受ける

22:66 夜が明けると、民の長老会、祭司長たちや律法学者たちが集まった。そして、イエスを最高法院に連れ出して、22:67 「お前がメシアなら、そうだと言うがよい」と言った。イエスは言われた。「わたしが言っても、あなたたちは決して信じないだろう。22:68 わたしが尋ねても、決して答えないだろう。22:69 しかし、今から後、人の子は全能の神の右に座る。」

22:70 そこで皆の者が、「では、お前は神の子か」と言うと、イエスは言われた。「わたしがそうだとは、あなたたちが言っている。」22:71 人々は、「これでもまだ証言が必要だろうか。我々は本人の口から聞いたのだ」と言った。』

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ここにサウロが登場します。後のパウロです。サウロは議員ではありませんが、最高法院は公開なので、傍聴していたのでしょう。しかも、偽証人たちが着ているものを預かっていますから、見届け等の役割をもらっていたと思われます。最高の学者で議員のガマリエルの弟子ですから、パウロはガマリエルの代行をしていたとも考えられます。服を預けるのは、証人がまず石を投げるのですが、石を当てるためにはユダヤの服では腕がうまく振れないからです。証人に立った者が先導して、群衆の石投げを誘導するので、当たらないことには始まらないのです。

 

ステファノは、これで殺されることが決定づけられました。もはやどうすることもできません。覚悟をして主に呼びかけます。

 

『7:59 人々が石を投げつけている間、ステファノは主に呼びかけて、「主イエスよ、わたしの霊をお受けください」と言った。7:60 それから、ひざまずいて、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と大声で叫んだ。ステファノはこう言って、眠りについた。』

 

かれらの罪は、既にイエス様が十字架にお掛かりになった事で、イエス様が負われました。ステファノは元々、イエス様を殺した人々の罪を責めようとしていたわけではなかったのです。イエス様が神の子であることを証しすることに命を懸け、その短い生涯を終えました。