ルカ22:1-13

 過越の食事の準備

 

1.過越祭と除酵祭

 

◆過越祭(すぎこしさい) ユダヤ教三大祭りの一つで,イスラエルの民が神によってエジプトから救い出されたことを祝う祭り。エジプト人の長子と家畜の初子を滅ぼした神の使いが,イスラエル人の家を「過ぎ越し」たことに基づいた名称(出 12:23-27)。ニサンの月の14日(太陽暦では3月末から4月初めごろ)に小羊を屠って焼き,種なしパンとともに食して祝った。イスラエル信仰の根源をなすエジプト脱出を祝うので,この祭りを忠実に祝うよう聖書記者は強調している(出 12:24,王下 23:21,エズ 6:19-22)。キリストも受難の前夜これを祝われた(ルカ 22:16)。初代教会は,キリスト自身をこの犠牲の小羊と見なし(1コリ 5:7),神の民の死から生命への過越を祝った。


◆除酵祭(じょこうさい) 過越祭に続いて7日間守られるユダヤ教の祭日。エジプト脱出を記念するため,当時の故事に倣って,パン種を入れないパンを作ったことから,この名称で呼ばれた(出 12:14-20)。ニサンの月の15日から7日間である。太陽暦では3月末から4月初めごろ(マタ 26:17,使 12:3,20:6)。

                                   (新共同訳聖書 解説より)

 過越祭:ニサンの月14日(日没から日没まで)  

  一緒に食べる苦菜は、苦よもぎとも訳されますが、ホースラディッシュ(西洋わさび)や、パセリを指します。過越の食事は、朝までに食べきります。また、残ったら焼き尽くします。朝から夕方の食事にも、種なしパンが出されます。また、この祭りの準備では、10日に傷のない雄の子羊、または山羊を選び分けます。晩餐であれば、普通日没後ですから、日没によって14日に入ったら、過ぎ越しの食事を食べることになります。


 除酵祭:ニサンの月15日~21日

  この期間は、種なしパンを食べます。

2.イエスを殺す計画

 祭司長や律法学者は、イエス様を殺そうと狙っていました。しかし、時期が悪かったのです。各国、国内各地に散らばっているユダヤ人たちの多くは、この過ぎ越しの祭りを目指して、エルサレムの神殿に昇ってくるからです。多くの群衆の中で、人気のあるイエス様を捕まえることは困難であります。民衆が暴動などを起こすきっかけとなってもいけません。そんなところに、イスカリオテのユダが、イエス様を祭司長と神殿守衛長に引き渡す相談をしに来ます。ルカは、ユダにサタンが入ったとしていますが、この裏切りが無ければ、十字架と復活が成就したかどうか・・・これも神様のご計画であったとは言えそうです。

 祭司長は、ちょうど都合がよいとその相談に乗ります。12弟子のひとりであるならば、イエス様を連れ出すことも、寝ているところに神殿守衛長の配下の衛兵を案内することも可能だからです。祭司長は早速お金でユダを買収します。しかも即金でした。これは、対価を払うことで、ユダが実行せざるを得なくなるのを狙ったものです。また、結果的にそのお金は、ユダがイエス様を裏切った物証なので、ユダの心を苦しめました。


3.過ぎ越しの食事を準備させる

 イエス様も、過ぎ越しの食事のための準備を弟子に言いつけました。遅くとも13日の昼だと思われます。まず、食事をする場所の確保、食材の確保等の準備が必要です。弟子たちには、その当てがありませんので、イエス様に聞きました。するとイエス様はこのように指示します。

『22:10 イエスは言われた。「都に入ると、水がめを運んでいる男に出会う。その人が入る家までついて行き、22:11 家の主人にはこう言いなさい。『先生が、「弟子たちと一緒に過越の食事をする部屋はどこか」とあなたに言っています。』22:12 すると、席の整った二階の広間を見せてくれるから、そこに準備をしておきなさい。」』

 「水がめ」で水を汲むのは、この当時のこの地域では、女性の仕事でした。男が水がめを運ぶと言うのは、極めて例外的と言えます。ただ、例外的に言えるのは、エッセネ派には男性しかいません。そして、この集団は、水による清めを重視していて、一日に何度も清めをします。エルサレムにもエッセネ派の人が多く住む地域がありましたので、水がめを運んでいる男がいても、不思議ではありません。また、バプテスマのヨハネは、このエッセネ派からでた預言者と言われているくらいです。聖書にはエッセネ派の人々は出てきませんが、そもそもエッセネ派とイエス様は、近い関係だったのかもしれません。あらかじめ、イエス様は誰かそう言った知人や活動を支援してくれる人に、過ぎ越しをする場所の準備を依頼していたことは十分に考えられます。部屋が整えば、食器や、小麦、子羊、苦菜など 食材を手配し、調理場を借りて準備をするだけです。マタイとヨハネは、そこで食事の準備をしました。


過ぎ越祭の日の夕食には、以下のものが提供されます。

マッツァー:種入れぬパン。エクソダスを記憶する。

ゼローア :焼いた羊肉。犠牲の羊を象徴する。

ベーツァー:ゆで卵。神殿崩壊の嘆きを表す。

カルパス :春の季節を象徴する緑の野菜。

マーロール:苦菜。エジプトで奴隷の境遇に落ちたユダヤ人が流した涙を表す。

ハローセト:果汁の練り物。奴隷となったユダヤ人が、エジプト王のために作った煉瓦を表す。