ネヘミヤ2:1-10

ネヘミヤ、エルサレムへ

ニサンの月:第一の月で、14日には過ぎ越しの祭りが行われます。(新年祭は、第七の月であるティシュリーの月の1,2日に行われる) キリスト教で言う 受難日に相当します。


1.ネヘミヤの直訴

『王の前で暗い表情をすることはなかった』

ネヘミヤは、王から尋ねられます。

『暗い表情をしているが、どうかしたのか。病気ではあるまい。何か心に悩みがあるにちがいない。』

 ネヘミヤは献酌官(1:11)だったので、王様の食事のときの給仕が仕事です。日常的に酒食で王様をもてなすわけですから、王様の身の安全や健康面だけではなく、話し相手として「王様のご機嫌」について責任がある立場です。王様の身近に常にいることから、出世することも多いのですが、失敗があると処罰を受けることもあります。そういう意味で、王様からのこの指摘は、「失職」しかねないほどの職務怠慢であるとも言えます。

 王様の問いに対して、ネヘミヤは、正直に今の思いを王に伝えます。

『わたしがどうして暗い表情をせずにおれましょう。先祖の墓のある町が荒廃し、城門は火で焼かれたままなのです。』

 王様は、ネヘミヤの答えを聞くと、その理由に納得したのでしょう。「何を望んでいるのか」と聞きます。

ネヘミヤは職務怠慢とみられても仕方がない状況に追いやられていますが、さらに職を休んで帰国したいとの希望を王に伝えたら、王が怒り出すかもしれません。

しかし、ネヘミヤは神様に祈って望むところを伝えます。

『わたしをユダに、先祖の墓のある町にお遣わしください。町を再建したいのでございます。』

 ここで、言わなければもう望みを伝える機会はないかもしれません。また、ネヘミヤがエルサレムに行くことを許さないかもしれないし、エルサレムの再建を許さないかもしれません。しかし、望みを伝えないとエルサレム再建のめどが立たないのです。一方で、ここで王様の怒りを受けたら、命を差し上げることになる可能性すらあります。ですから、唯一ネヘミヤができることは、神様に祈ることでした。

 ネヘミヤは、エルサレムの現状を知ったときから、故郷の再建のために祈っていたのでしょう。そして、その結論は、ネヘミヤ自身がエルサレムに行くことでした。それだけではありません。ペルシャ王の権威を使って、近隣の行政官を動かすことでした。エルサレムの再建を阻止してきた近隣の行政官に、この直訴のことを知られたら、反対されることになります。「ユダにある先祖の墓のある町」は、明らかにエルサレムのことですが、ネヘミヤは王様に対してエルサレムの町の名を出しませんでした。あくまで、ネヘミヤの故郷を再建する個人的な願いですので、王様も政治的な意図とは受け取りませんでした。ですから、すぐに許可されます。また、ペルシャ王の出した許可は、取り消されることはありません。

2.再建のための手配

  ネヘミヤは、願いを具体的に出しました。良く計算して準備をしていたと言えます。王様から日程を聞かれた時にも、たぶん即答できたのでしょう。そうでなければ、王様は、ネヘミヤが休むことを許すわけはないからです。また、この日程の質問には王妃が加わっています。つまり、いつネヘミヤが返ってくるのかは、王様と王妃が共通に興味を持つことだったわけです。

そのあとに、ネヘミヤのお願いが、続きます。

 第一に旅の安全です。ペルシャ帝国は巨大だったので、州にわけて行政が行われていました。ユーフラテス川を渡ったところあたりから、ペルシャ傘下の別な国と思ってよいわけですから、『ユーフラテス西方の長官たちにあてた書状をいただきとうございます。』と要求します。たぶん、身分証明と、保護要請を書いてもらったのだと思われます。(パスポートみたいなもの) もちろん、行政の境界を通過するときに必要ですし、宿泊場所や、乗り物等の帝国として整備された施設も無料で提供されたはずです。また、安全と言う意味では、エルサレム周辺は工事を妨害する者(アンモン人の役人となったイスラエルの名家トビヤなど)がいましたから、王様は軍隊までつけてくれました。

 さらに、ネヘミヤは『神殿のある都の城門に梁を置くために、町を取り巻く城壁のためとわたしが入る家のために木材をわたしに与えるよう』王様の森林の管理人に対して資材の調達に応じるようにとの通達もお願いしました。石も人もお金も特に要求していませんが、エルサレムにある物と、不足している物をすでに調べていたのだと思われます。

 そして、王様はこれらすべての要望に応えてくれました。それをネヘミヤ自身は『神の御手がわたしを守ってくださった』と述べています。 ネヘミヤは、祈りが聞かれると信じていたからです。ネヘミヤは、背後ですべてを支配され、導いてくださる神様を賛美します。

 しかし、準備万端であっても、問題はありました。妨害する者たちは、エルサレムが再建されようとする動きに敏感に反応し、警戒心を高めていました。

 ホロニ人サヌバラテとは、サマリヤの総督です。トビヤとは、イスラエルの名家の一つです。アンモン人の土地に住み、アンモン人との婚姻によって血のつながりを持っていました。つまり、イスラエルの民ではあるものの、すでにアンモン人と同化してしまっていたのです。トビヤは、ユダヤ人でありながら、異邦人(異教徒)と関りを持ち、富と地位を築きました。本来なら、神殿再建に協力すべき人であるのに、自分の利益(アンモン人との関わり)のために、再建工事に反対し、邪魔をしてきていたのです。そして、神殿ができたときには、祭司のための部屋をトビヤは自由に使っていました。神殿への奉献物を搾取(13:5)するためです。