使徒19:21-40

エフェソの騒動

  

 パウロは、エフェソで伝道し、教えが広がってきました。そして、かつて第二回伝道旅行で訪ねたマケドニア州のテサロニケやアカイヤ州のコリントを訪問して、五旬節までにエルサレムに戻ろうとし決心します。(使徒20:16)そこで、テモテとエラストを先にマケドニア州に送って、パウロ自身はアジア州のエフェソに滞在していました。これは、第二回伝道旅行の時のマケドニアでの暴動の経験から、様子を見させに出したのだと思われます。


1.銀細工職人の不満

 エフェソには、アルテミス神殿があってオリンポスの神々が祭られていました。アルテミスの神殿には女神アルテミスの像が置かれ、多くの信仰者が巡礼しに来ます。そういう一大観光地ですから、その巡礼相手の商売が盛んでした。魔術師・祈祷師の類や土産物屋も多かったと想像されます。なにしろ、アルテミスの月は、月の間中祭りがおこなわれていましたし、王侯貴族や商人が宝石などを献品していましたから、そのにぎやかさと豪華さは群を抜いていたようです。古代の七不思議にも挙げられています。そのアルテミス神殿のあるエフェソの街でパウロは伝道していました。パウロは、当然のように『人が手で作ったものは神ではない』とイスラエルの神様だけが神であることを教えて回っています。ただ、さすがにアルテミスを礼拝しに来ている人には控えると思います。しかし、パウロの教えを知ってそのことをよく思わない人の代表が、そのエフェソ土産を作る、銀細工の職人たちです。アルテミス神殿の人気のおかげで、神殿の模型がたくさん売れるからでしょう。そこに、「アルテミスは、人が作ったもので神ではない」と教えている人がイスラエルの神様のことを伝道しているとしたらば、商売に影響しそうです。何しろパウロがエフェソで伝道するとしたら、最も人が集まるところに行くはずです。つまりアルテミス神殿前の広場等、お土産屋さんが集まる場所で、イスラエルの神様とイエス様の教えを広めているわけですから、不満が出て当然です。また、パウロたちの働きが無視できるうちは問題にしなかったのでしょうが、エフェソでキリストを信じる者が増えては、年々巡礼客が減ることも心配になってしまいます。神殿の模型の職人は、まるで、エフェソの街どころかアジア州全体が、アルテミス神殿の権威によって経済的に成り立っているような認識をしているようです。そこまではないとしても、エフェソの人々にとってアルテミス神殿は、精神的な支えだったのだと思われます。そこに、パウロたちが表立っては言わないものの、「アルテミスは人間が手で作った」と教えていることを知っては、怒り出しても不思議はありません。


2.暴動へ

 パウロの同行者がとらえられて、野外劇場に連れられて行きます。こうなると、さらに混乱して訳も分からず野外劇場に人が集まります。パウロの弟子たちや、祭儀をする高官たちは、パウロが劇場に入るとさらに混乱すると思い、パウロが行くことを止めたほどです。誰もが何が何だかわからなくなったものと思われます。結局この地方の書記官が出てきて、この集会を解散させたとあります。この書記官は、パウロたちが、神殿を荒らしたわけでもなく、アルテミスを冒涜したわけではないことを指摘しました。つまり、犯罪を犯していないのだから、もし利害関係でもめているならば、裁判にかけなさいとアドバイスします。

『本日のこの事態に関して、我々は暴動の罪に問われるおそれがある。』と言った書記官は、暴動が起これば自分も罰せられるとの認識で間に入ったのだと思われます。暴動となると、何人かは重い罰を受けなければなりません。それにしても、混乱した集会のなかで、書記官はどうやってパウロたちが荒らしも、冒涜もしていないことを知ったのでしょう。ほとんどの人が、何の集会かも知らないまま集まっていたはずです。そこには、2つの可能性があります。書記官自身がパウロたちの活動を興味をもって(捕まえる口実を探して)見張っていたのか、パウロの仲間になっていたのかです。