使徒23:12-35

パウロ暗殺の陰謀

      カイサリアはローマの総督が駐在する町です。エルサレムではなく、故ヘロデ大王が作った町カイサリアにローマ軍が駐屯することで、属国とはいえユダの国の自治が認めてられていることが分かります。とは言いながら、神殿に隣接する最高法院(裁判権を持ったユダヤの宗教的、政治的自治組織)には、死刑判決は認められていませんでした。また、ローマに身柄を取られた人を裁判にかけるためには、ローマ側の許可がいります。

アンティパトロス(アフェクの町をヘロデアンティパスを記念して改名)は、エルサレムからカイサリアに向かう途中、港町ヨッパから内陸に入った場所です。エルサレムから50km弱ぐらいありますから、歩兵が仮に時速5kmで歩いたとしても、10時間くらいかかります。夜9時に出て、夜明け前にアンティパトロスに到着したということは、かなり急いで進んだことがわかります。

 

1.パウロ暗殺の陰謀

 パウロは、千人隊長によって保護されましたので、もともとパウロを捕まえようとしていた人々は、パウロに手を出すことができません。パウロを最高法院で再度取り調べることは出来ますが、取り調べの後また保護されると考えるのが普通でしょう。また、パウロが最高法院で有罪になっても、ローマ市民であるパウロは、ローマによらなければ裁かれません。ローマの審判を受けるときには、ユダヤ人たちは、パウロに全く手出しをする機会がなくなってしまいます。だから、陰謀によって最高法院に呼び出している間に暗殺する以外の手段はなかったのです。40人以上がこの陰謀に参加したということですので、その情報はパウロの姉妹の子に伝わり、パウロおよび千人隊長はその陰謀を知ることになります。

 

2.パウロをカイサリアへ

 千人隊長は、手紙を書いてすぐにパウロを総督フェリクスのところへ送ります。その目的は、ローマ市民の保護ですが、ユダヤ人たちとローマ兵の関係を悪くしないように配慮する必要もあります。なぜなら、総督ピラトの時代以来ユダヤ人とローマ兵は衝突を繰り返していたからです。そのために、千人隊長は、告発人たちに、「この者に関する件を総督フェリクスに訴え出るように」と、命じておきました。こうして、陰謀が行われようとする前に、その陰謀の手の届かないところにパウロを逃がし、そして訴える者はユダヤの最高法院ではなくローマのユダヤ総督に訴えなければならなくなりました。それは、ユダヤの律法ではなくローマ法で裁かれることを意味します。千人隊長は、「パウロはローマの法律を破ったわけではなく、ユダヤの教えの事で訴えられている」ことを見ていましたから、訴えが通らないことは見越していたと思われます。フェリクスもそれを理解しました。そして、キリキア州の出身と知り、尋問を後回しにしました。想像ですが、キリキア州にはフェリクスよりも格上の人がいるわけがないからだと思われます。その理由は、パウロが格上の人の子弟でない限り、至急の問い合わせがあっても、ゆっくりとした対応で構わないからだと考えられます。