83歳のやさしいスパイ
A&A探偵事務所が新聞に出した広告は80~90歳の高齢者求むという奇妙なもの。それでも何人かが応募して来る。採用されたのは83歳のセルヒオ。妻をなくして四ヶ月、退屈な日々に飽きたところ。任務は聖フランシスコ特養ホームに三ヶ月潜入し、虐待などが起きていないか調べること。依頼者は母親が虐待されてるのではと疑っているらしい。報告にはスマホを使うので、セルヒオはまず操作を覚えなければならない。他にカメラや録音機能のついたペンやメガネ。家をあけることについては、娘のダラルも所長ロムロの話を聞いて納得する。何しろ盗撮とかするわけだから。入所したセルヒオはすぐ女性達の関心を引く。ここは女性が40人、男性が4人だからね。物静かで紳士的で、人の話を親身になって聞くセルヒオ。そのうちここでの生活にも慣れてくるが、ターゲットのソニアにはなかなか近づけない。写真二枚見せられただけだし、女は40人もいるし、似たようなのがいるし。やっと見つけたものの、ソニアは話好きな方ではなく、情報が得られない。ホーム内でシャツなどがなくなったという話はある。後でマルタの仕業とわかる。彼女は少女の頃に戻ってしまったのか、いつもママが迎えに来てくれるのを待っている。外へ出たくても、家に帰りたくても門には鍵がかかっている。たぶん彼女は盗みなど悪いことをすれば母親が駆けつけてくると思っているのではないか。いつもマルタと一緒にいるソイラは背中が曲がった大人しいタイプ。ベルタは太っていて、やっと理想の男性にめぐり合えた、結婚したいと胸をときめかす。セルヒオは妻をなくしたばかりなので・・と、やんわり傷つけないよう気を使う。ルビラは記憶の欠落が不安だ。セルヒオはロムロに頼んで、彼女の家族の写真を取り寄せてもらう。本来の仕事からははずれたことだが、ロムロもやさしいところがある。結局セルヒオの見るところ、スタッフによる虐待なんかいっさいない。問題なのは入居者達が抱える孤独感。面会を待ちこがれる日々。仕事とは言え一緒に暮らしていれば情もわく。みんなが気の毒でたまらない。彼には家族もいるし、任務が終わればここを出られる。その彼がしてやれることと言えば、友人としてここを訪ねてくることくらい。映画は途中で撮影スタッフがうつり、ドキュメンタリーだと明かされるが、一番最後に明かした方がよかった気がする。