ソラリス、惑星ソラリス

惑星ソラリス

以前「ソラリス」を見て、こちらも見たくなり、DVDをゲット。今回久しぶりに見たが・・。おもしろくない、退屈、眠くなる、意味わからん。DVDは二枚組で、かなり高価。新品買ったのか中古見つけたのか、もう忘れちゃったけど、特典に日本語字幕がついてないのには呆れた。何て不親切なんだ!DVDカバーには本編76分とあって、これなら短くていいや・・と、見る気になったんだけど・・。いつまでたってもストーリー進まなくて、ありゃおかしいぞ。よく見たらこれは第一部で、第二部が84分だったのよ。長いってことすっかり忘れていて。二枚目のディスクは特典だけだと思い込んでいたわけ。でも半分見て終わりにするわけにもいかないし・・と、仕方なく(←?)全部見たわけですの。見ている間中頭に浮かぶのはハサミ。それもよく切れるやつ。ここはいらん、あそこもいらん、長すぎる、何でこんなに延々とうつすのだ。歩くのももったらもったら大儀そう。しゃべる前には一呼吸・・いや、ふた呼吸、三呼吸おく。話し始めても意味不明。でも、仕方ないよなソ連映画だし。たぶんソ連映画は3時間以上なくちゃいけないのだ。1時間半や2時間じゃ短編映画なのだ。主人公クリス役はドナタス・バニオニス。ドナタデス・オバンデス?映画そのものは雑誌等で写真見て昔から知っていた。でも、主演はオリバー・リードだと思い込んでいた。彼SF映画に出てたし・・ってあれは「赤ちゃんよ永遠に」だったっけ?ハリー役はナターリヤ・ボンダルチュク。おとっつぁんがセルゲイ・ボンダルチュクで、まあ名前だけはよく知ってるけど映画は見たことなし。両親とのあれこれは別として、バートンの報告内容はわりと原作通り。4メートルもある赤ん坊とか。だから少し期待したんだけど。やっと舞台が宇宙ステーションに移って、”お客”の描写とか期待したんだけど・・だめでしたな。ハリーが登場して「愛してる」とか「何でもない」とかそんなセリフばっかりで。こんなこと言ってるようじゃ話は全然進まないし、何もはっきりしない。原作者スタニスワフ・レムが監督タルコフスキーに怒ったらしいけど、ムリないやね。私は「ソラリス」の方が好きだ。わかりやすいし、音楽や映像もきれい。

ソラリス

えーっとぉ、ボク心理学者と言うか精神科医のクリス・ケルヴィンなんですけど、患者の悩み聞いているようでいて実は全然聞いてないんですよ。はっきり言って患者のことなんかどーでもいいんです。前からうつすとそれわかっちゃうから、後ろ姿うつしてますけど。こんなことじゃいけないんだ、あのことはできるだけ考えないようにしなくちゃ・・と思ってはいるんですけどね。でもどうしても考えちゃう。人間には記憶ってものがあるから。最初に彼女を見かけたのは列車の中。目と目が合っちゃってボクチャンドッキーン!でも駅で降りてしまえば終わりでしょ。それっきり思い出すこともないはずだった。とっころが!!友人のジバリアンの家で偶然再会しちゃってボクチャンカンゲキ!!うれしいことに彼女レイアの方もまんざらじゃなさそうなんだな、これが。これってボク達の運命だったんだと思う。熱心にプロポーズしたのはボクの方。だって彼女美人だからほっといたら他のヤツに取られちゃう。でもなぜか彼女結婚渋るんだよねー、何でかなー。でもほらボクって楽天家だから深くは考えなかったのよ。押しの一手で攻めてとうとうOKさせちゃったんだ。しばらくの間は幸せだったよ、ウン。でもね、彼女の考え方って今いちぴんとこないってゆーか。ボクって無神論者なんだよね。人間はなぜ存在するのかとかさ、そんなことで頭悩ます必要ないと思うな。理由なんかなくたって現に今ボク達は存在しているんだからさ。どうやったら毎日を健康で楽しく生きられるか、そっちのこと考えた方がよっぽどマシ。生まれてくる子供が心配?お母さんが精神異常だったから?ナーンセンス!そんなに心配だったら遺伝子検査をしてみれば?それでだめだったら中絶すればいいんだし。え?もう中絶した?それってどういうことかなあ。ボクに何の相談もせずかってに堕ろしたわけ?ボクつんぼさじき?それってムカつくよなあ、だってボクいちおう亭主でしょ?まあ前々から彼女の言動にはムカついていたんだよね。結婚前とは全然態度違うしボクと距離置きたがるし。その時のボクはマジで切れちゃって、彼女が泣いてすがってきてもうとましいだけでさ。突き放してさっさと出かけちゃった。全く頭くるよなー「あなたなしでは生きていけない」とか聞いたふうなこと言ってさ。ボクなしで決断して子供堕ろしておきながらよく言うよ!

ソラリス2

で、その後あっちこっち飲み歩いて、でも結局帰るところは家しかないし。それでもかなり時間つぶしてから戻ったんだけど・・。最初はね、このままじゃやっていけないから今度こそ離婚だ!・・なんて頭に血が上っていたのよ。でもボクいちおう心理学者で精神科医でしょ、逆上するなんて恥だなーなんてそのうち思えてきてさ。仲直りしてもいいかなーとか思ったわけよ。最初は彼女泣き疲れて寝ているのかと思った。そしたら何だか様子が変で・・体が冷たいし・・。まさか自殺するなんて・・(涙)。それからのボクはヌケガラなんだ。最初の驚きや悲しみが消えると次にわき起こってきたのは後悔の念。人間てさ、死んじゃったらおしまいなんだよ。彼女は神とか永遠の命とか、そういうの信じていて、ボクはそんなのあるわけないってバカにしていたのにさ。そしてその通りの状況になって、ボクの考えの方が正しいって証明されたのに、なんだろこの喪失感は・・。夜は眠れないし、仕事は忙しくやってるけど実際にはボクの前を通りすぎるだけ。患者のことなんてどーでもいい!(あッまた言っちゃった)彼女の思い出もさ、こんなふうに通りすぎてくれると助かるんだけど。えッ何?ジバリアンからSOS?ボクに?ウーン面倒くさいけど行ってもいいかな。ソラリスまで?いいよ、少なくとも気晴らしにはなるだろうからさ。このままじゃボクの方が鬱病になっちゃうもの。・・で、はーるばるきたぜソラリス♪ずいぶん近いな。これじゃ角を曲がってすぐ・・みたいじゃん。あれ?出迎えなし?呼んどいて何だよ、おかしいなあ誰もいないしこれって血のあと?エイリアンでも来襲したのかな。おんやー?何か聞こえるぞ、この男ってスノー?えらく貧弱なヤツだなあ。言ってることがはっきりしないし、手をやたらひらひら動かして、こいつの精神状態確かにヘン。落ち着きがなくてそわそわしてうさんくさい。もう一人のゴードンは引きこもりってやつ?目をぎらぎらさせて、この女もどこか異常だ。誰かに脅迫でもされているみたいなせっぱつまった様子をしている。スノーはなげやりでどうでもいいような態度だし、こっちは好戦的。何に対してあきらめ、何に対して敵愾心燃やしているんだろう。二人とも何か隠しているのは確かだけど、それはいったい何なんだろ。あーでもいいや、とりあえずは寝よーっと。長旅で疲れてるしさ。

ソラリス3

妙なことばっかり起きるから(ジバリアンは自殺しちゃっていたしさ、わざわざかけつけた意味ないじゃん)、彼女のこと考えるヒマがないのはいいことだ。ぐっすり眠って・・何たってこの世で説明つかないことはないんだからさ。今は不思議に思えることも一晩ぐっすり眠れば明日にはなーんだってことになるに違いないもん。あーでもさ、夢だけはどうにもならないんだな、これが。見たくなくても彼女の夢見ちゃう。でもいいや、初めて出会った頃の楽しい夢ならさ。キミ、ボクのことが好きなんだろ?ウン、ボクもさ・・なんちて。あれー?何だろこの感触は・・色とか味とかにおいの他に感触もあるぞ今日の夢は・・。えッ?キャーッ、オバケー!!今まで数えきれないほど訴えられたんだよね「先生ッ!私には見えるんですッ!見えるはずのないものがッ、いるはずのないものがッ!」・・その度に「気のせいです、心配することありませんよ、さあリラックスして」なんてえらそーにかまえていたボクがバカでちたー。今ボクにもはっきりわかりまちたー。見えるはずのないものが見え、いるはずのないものがいるんでちゅー!おかーちゃーんこわいよー!ハッ!待てよしっかりしろこいつは幻だ。ボクは疲れているのだ長旅で。いるはずのないものなら消してしまうのが一番。よし!ポッドに誘い込んで宇宙へポイッ!あーよかった、消えてしまえば最初っからいないのと同じことだしぃ。ウッ・・でも戻ってきたんだよね、彼女。どうもソラリスはボク達が眠っている間に頭の中に入り込むみたいなんだな。ボク達が現われて欲しいと思っている人間がコピーされて出てきちゃうんだな。ボクの場合はレイアだったんだけど、そしてジバリアンの場合は地球に置いてきた息子のマイケルだったんだけど、スノーやゴードンの前に現われたのが何なのかは知らないよ。スノーは弟だと言っていたけどボクは見てないし、ゴードンは何もしゃべらないしさ。マイケルはボクがジバリアンちでレイアに再会した時にはまだ生まれたての赤ん坊だった。あんなに大きくなっていたんだね、いつの間にか。・・でもあの子がマイケルだってのも、ボクがそう聞いてるだけで・・ホントにそうなのかどうかは知らないよ。天使だっていうウワサもあるし。やれやれジバリアンもボクを呼んだ以上は生きててくれなきゃ困るよなあ。ボクこの先どうすりゃいいのさ。

ソラリス4

レイアは自分の存在に疑問持ってるしさ。聞かれたってボクにも詳しいことわかんないし、考えたって答出ないし。もうどうだっていいや。レイアと一緒なら地球に帰ってもいいな。だって元々彼女のこと好きだし、やり直すことができるーなーらーボクは何を惜しむだーろー♪でもゴードンは聞かないんだよなーあの石頭、いやんなっちまう。最後まで自分の「お客」誰だったか言わないしさ。さっさと消滅させちゃったしさ。この女自分が一番なんだよ、人類を救うヒーロー・・じゃないヒロイン気取りなんだよ。すっごく理性的でさ、今は鬱で時々躁、強迫観念に広場恐怖症に・・なんだボクの出る幕ないじゃん。ここへ来たのはボクが心理学者で精神科医だからなんだよ。ここの連中助けるためにやってきたのよ。でも誰も治療を望んでない。何も話そうとしない。・・で、ボクお払い箱なわけよ。レイアといちゃいちゃするか寝てるか起きてるか。ヒッグス場だの何だのって言われたってちんぷんかんぷんだし。自動操縦で寝ている間に着くって言うからここへ来るの承知したのよ。だってボク宇宙飛行士じゃないし。それにしてもレイアって死ぬことばっかり考えてる。考えていないレイアの方はボクが宇宙にほうり出しちゃったんだけどさ。今度のレイアは自分から進んでゴードンに「私を消滅させて」って泣いて頼んだみたい。赤ん坊ができた時もそうだけど、どーしてボクのことないがしろにするのかなームカつくよなー。あれッ?結局ボクって同じことやってるじゃん。彼女を自殺に追いやったことを悔やんでいるはずなのに。もし過去の過ちを帳消しにできるものなら・・っていっつも考えているくせに。同じ過ちくり返してるよボク。さて彼女は消滅しちゃったし、そのことで燃料電池使いすぎちゃったし、反対にソラリスは活動が活発になってきている。このままじゃ飲み込まれちゃうみたい。スノーは「お客」で、実物の方はとっくに死んでいたらしいけど、それについちゃ詳しいことは書かないでおく。だってボク心理学者で精神科医なのに、あいつがおかしいって気づいていたのに、コピーだって見抜けなかったんだよ!これって恥じゃん。あーもうボク看板下ろそうかしら。ボクの方がソファに横たわって誰かに悩み聞いてもらいたい気分!地球に戻ってもこんなふうにヌケガラなら戻ってもしょうがないかな。かえろかなーかえるのよそーかな♪

ソラリス5

あら?ゴードンの薄情者!ボクを置いてさっさとロケット発射させやがった!フン、いいもんねーもうすぐソラリスに飲み込まれて死んでやるもんねー。どーせ生きていたっていいことないし。・・そばに誰か来たけど、ん?マイケル・・ソラリスの一部になるかって?いいよ、長いものには巻かれろ、ソラリスには飲み込まれろ・・だ!前ジバリアンちで議論したことあったっけ。ボクは前にも言ったけど無神論者だから、適当な条件が揃って生物が誕生し、長い時間かけて進化し、人間になったんだと思っている。偶然の産物なんだろうけど、でもゼロではない確率の結果・・それが人類さ。でもレイアは違うんだな。誰かの意思が働いているって思ってるんだ。自分達が今ここにいて生かされていることには何か意味があるって思ってるんだな。でもそれなら何で原人とか猿人の骨が出るわけ?途中の段階なんか必要ないでしょ?初めにアダムとイヴがいればいい。あッ話がそれちゃったかな。結局今みたいな緊急事態にはさ、そんなことどーでもいいんだよね。地球にいて人間とは何かって考えるのもいいし、宇宙の果てで地球を懐かしがりながら人間とは何かって考えるのもいい。そして今のボクみたいに人間じゃなくなる時に人間とは何かって考えるのもいい。あるいは人間とは何かって考えないこともさ。・・今のボクはソラリスへ行く前と同じように暮らしている。人々の間を歩き、雨の中アパートへ帰ってくる。ん?今誰かボクのこと呼んだ?夕食作りの途中で指を切ってしまった。何だか前にもこんなことあったな。でも水で洗っているうちに傷は消えてしまった。その時ボクは気がついたんだ。今のボクは前のボクじゃないって。意識はあるけど実体はないんだ。今ボクがいるのはソラリスの中なんだ。今のボクって人間と言えるのかな。いやいやそんなことはどうでもいいや。レイアがまた現われてボクを愛してると言ってくれたし・・。ずっと一緒だと言ってくれたし・・。また同じ過ち?いやいやそれももうどうだっていいんだ。彼女が今ボクと一緒にいてくれる、そのことだけで十分なのさ!大事なことは答じゃない、選択なんだ。ボクはソラリスに残り、彼女と一緒にいることを選択した。そしてそれは間違っていなかった!(・・とまあこの映画で言いたいのはこういうことなんでしょ?)

ソラリス6

クリス、ご苦労様。次は私、レイアね。と言ってもレイアのコピーだけど。原作ではハリーって言うのよ。でもハリーじゃ男の名前みたいですものね。年齢は19だけど、映画ではそうもいかないからもっと上にしてあるわ。原作では数年間結婚していて、死んだのが19ってなってる。ねえ、私いったいいくつで結婚したの?幼な妻もいいとこよね。でも映画はクリスがジョージ・クルーニーなわけでしょ。クルーニーと19の小娘じゃ話になんないわ。もっと大人のムードを出したいんだから。・・で、この女優さん持ってきたわけね。この人ジャンヌ・モローに似ている。え?ナターシャ・マケルホーン?誰?それ。あッ時々わけわかんないこと書いても気にしないでね、私コピーだから。妙なこと知ってると思うかもしれないけど、ステーションには図書館があって、いろいろ資料が揃っているのよ。ソラリス学、ソラリス年代記、地球のことあれこれ・・。だって他の知的生命体に出会った時、私地球のこと何も知りません・・じゃ困るでしょ。何聞かれてもいいように雑学的な資料もいろいろ取り揃えてあるのよ。さてクルーニーだけど、なぜこんな地味な役やったのかしら。他の人にオファーが行っていたのに自分がやりたいって言ってきたそうね。SFと言っても宇宙人相手に戦うわけでもなし、ヒットしないってわかっているのに急にこういうシリアスなものやりたくなったのかしら。案の定コケて、評判も今いちだったみたいだけど、一部の人には好まれているようで・・。まあとにかくハリウッド映画としては異色かも。作りはすごくていねいで、どんな大作にも負けていない。ただハデなドンパチはなくてスローテンポだから眠くなるかも。クルーニーもきびきびと動くってことがなくて、じっとしていることが多い。妻(コピーだけど)として言わせてもらうと、クルーニーのお尻や毛むくじゃらの腿は見たくなかったわね。ちっともセクシーじゃなかったわ。後半汗びっしょりで眠気と戦っている(?)ところなんて最悪。彼は服を着ている時の方がずっとステキよ。原作は映画ほど二人の結婚については書いてないの。けんかした後ハリーが自分に毒物を注射して自殺し、それから十年たっているという設定。映画は十年もたっていないわね、あのマイケルの年格好からして。

ソラリス7

ここでちょっと書いておくけど、原作でも映画でも地球とソラリスとの距離についてははっきりしないの。特に映画ではステーションの連中がおかしいぞ・・となって、会社が警備部隊を送って、でもその後連絡がなくて、ジバリアンからクリスに来て欲しいとSOSが来て、クリスがソラリスに着いて・・だからかなりの時間経過してるはず。でもそんなことは無視している。クリスは野菜を切っていて指を傷つけるけど、それが治る前にもうソラリスに着いてる。こんなに早く来れるってことは、ワープ航法が確立しているってことだけどそういう描写は全然ないの。さてちょっとひどいなあと思うのは、精神科医であるはずのクリスが私のことちっともわかってくれてないってことなの。いろんな人を診察していろんなケースがあるって人一倍わかってるはずなのに、自分の奥さんのこととなると別なのね。自分の思い通りにならないとすぐ怒るの。もうちょっと長い目で私のこと見守って欲しかったわ。あの時の私は混乱していてつい口走ってしまったの。でもだからと言って「じゃあ生きるな」なんて、なぜあんなひどいことが言えるのかしら、信じられない!でもあの時の私は一人取り残されて、もう生きる望みもなくなって・・。私はコピーだから本物のレイアがどう感じていたかはわからない。最後のいさかいだってこれはクリスが感じたこと。クリスの記憶。私自身の記憶はないのよ。最初自分の存在に気がついた時、私の頭の中はからっぽだった。自分が誰なのか、目の前で寝ている男性が誰なのかわからなかった。その後少しずつわかってきたけど、空白の部分がまだある。ほとんどの記憶はクリスと一緒にいる時のこと。私一人でいる時の記憶はほとんどないの。自分で自分のことがわからないんだから、映画を見ている人にはもっとわからないでしょうね。そんな設定に加えてセリフがまた陳腐でしょ。行かないで・・あなたなしでは生きていけない・・私のこと愛してる?これからはずっと一緒よ・・。ウー、みんなどこかで聞いたようなセリフよね。こんな宇宙の果てのステーション内で、何でアメリカの一都市のアパートでかわされるようなセリフを言うのかしら。どこへ行っても、どんなに時代が進んでも(当然これは未来の話ですものね)男女の愛は不滅・不変だってことを言いたいのかしら。

ソラリス8

これじゃあSFならぬSM映画。つまりスペースメロドラマ。サントラのカバーなんてクリスと私がキスをしているところのアップよ!「ソラリスの中心で愛を叫ぶ」「いま、ソラリスにゆきます」「冬のソラリスのソナタ」「天国の階段のソラリス」・・とにかく愛がてんこもりなの!それにくらべれば原作の方がよっぽどSFしてるわ。タルコフスキー版は見たことないからどうなってるのかわからないけど、原作にはCG向きの場面がいくつかあるわ。あるいはホラー的な要素もね。ホラー要素その1は謎の黒人女。大柄で半裸の黒人女性がギバリャン(映画ではジバリアン)の部屋に入っていく。あるいは冷凍室のギバリャンの死体のそばに横たわる。クリスがさわってみると零下20度だというのに肌はやわらかく、生きていて(!)、さわられた足を反射的に引っ込める。ねえこれって何となく吸血鬼を思い出さない?いるはずがないのにいて、生きていられるはずがないのに生きている。ギバリャンが死んでも「お客」である彼女は消滅もせずそのまま残ってステーション内をさまよう。映画だと息子のマイケルに変更されているからあんまり不気味ではないけど。ホラー的な要素その2は空中に浮かんだ4メートルの赤ん坊。しかも百面相を(するんじゃなくて)させられている。実際に描写されたら(CGでしかできないと思うけど)さぞ薄気味悪いことでしょうね。私がこの部分を読んで思い浮かべたのは「2001年」のラストよ。でも「ソラリス」でこれを出したら絶対「2001年」のパクリだと思われてしまうでしょうね。原作ではソラリスの海のことがいろいろ書かれているけど、映画では惑星全体。本体はまるで脳のようで、そのまわりには神経が張りめぐらされ、光の信号が行きかっている。それに静かで神秘的な音楽がかぶさってとってもステキ!原作の海は刻々と姿を変える。この部分は「鉄腕アトム」の「ミーバ」を思い出すわ。それはなぜかはまた後で書くけど。ソラリスの海は場所によってはヘリコプターを着陸させることもできる。そのへんを歩いて回ることもできる。地球の海とは違うの。石膏でできた公園の模型のようなもの、あるいは古代都市のようなものを作り上げることもあって、<擬態>と形容されている。しばらくするとなくなってしまって、常に流動的。液体の部分は手を差し出せばすぐ近くまで寄ってくるけど、さわろうとすれば退いてしまう。

ソラリス9

でも寄ってきた時点で彼らは何かを学び取っているのよね。人間から見れば彼らのことは何も理解できないから歯がゆい。だから時には境界線を越えてしまう。沈黙する海にいら立って、有害だからと禁止されているエックス線を海に向かって放射するの。ステーションに「お客」が現われ始めたのはきっとそのせいでしょうね。映画だとそういう伏線はなくて、ただわけもなく「お客」が現われ始める。NASAが調査していた頃は何でもなかったのかしらという疑問が残るわね。さてクリスの場合は現われた「お客」が私レイアだったために、愛着の念がわいてしまうわけ。例え消滅させる方法があったとしてもそれを使わず、地球に連れ帰ってもう一度やり直したいと思う。その一方ではゴードンのように人類が滅亡するかもしれないと反対する人もいて・・。ここらへん他のSF映画だったらもっと違うことで争わせたと思うわ。つまりソラリスの事業はNASAからDBA(何の略なのかしら)に移っていて、ゴードン達はそこに雇われているわけでしょ?だから全員とはいかないまでも、そのうちの何人かは会社(と言うことにしておくわね)の利益のことを考えると思う。ソラリスには商業的な価値も、軍事的な価値もなさそうに思われていたのに、こんな現象を作り出す能力があるってわかったのよ。クローンネコじゃないけど、失った人や動物をもう一度・・と考えている人はいっぱいいると思う。「あなたの夢かなえます」事業は大儲け間違いなしよ。そりゃ問題はいっぱいあるけど(例えば映画の中には出てこないけど・・と言うか、DVDのコメンタリーによれば一度撮影したんだけどそのシーンには使わなくて、別のシーンで使われているんだけど、私達コピーはそばを離れるのがとってもいやなの。閉じ込められると部屋のドアを壊してしまったりするの。ものすごい力を出せるのよ)、地球の科学では全部はコントロールできないけど、なーに何とかなるさ・・会社の人達はきっとそう考えるはずよ。「エイリアン」に出てくる会社と同じでね。・・で、クリスはそういう金儲け主義の敵と戦うわけ。一方では私のこと愛しているから消滅させることはできない・・と苦しむの。そうなれば悲恋あり、アクションあり、謀略ありのドラマチックなSF大作になって、主演がハンサムでセクシーな大スタークルーニーだから大ヒットとなるわけよ。

ソラリス10

ところができ上がったのはこぢんまりとしたメロドラマ風SF。作り手には最初からこういう路線で・・という思いがしっかりとあったんでしょうね。アクション風味はゼロ。もっと原作にある不可解な謎めいた部分を強調する手もあったけど、それもやってない。「愛してるわ」「君とやり直したい」「いつまでも一緒よ」という大変わかりやすい内容になっているのよ。ラストも原作の文章をはっきりとハッピーエンドと解釈して表現しているしね。クリスは苦悩から解放され、愛する妻(コピーだけど)を手に入れてめでたしめでたし。でもクリスの苦悩も、私の苦悩も、さほど見ている人に伝わるとは思えないわ。ソラリスのこともね。すべてはあいまいで(だいたいクルーニーという俳優さんからしてとってもあいまいな感じのする人でしょ?)、印象はうすく、流れる音楽もとっても静か。それでも「愛は不滅」という古くさいテーマだけはちゃんと伝わってくるわね。さて映画とは関係ないんだけど、原作の<擬態>を読んで心に浮かんだことを書くわね。コピーなのに何で?なんて野暮なことは言いっこなしよ。「少年」という雑誌での「鉄腕アトム」の最終エピソードは「ミーバ」で、これには四次元の生物が出てくるの。<擬態>は今ならCGで表現するんでしょうけど、昔なら粘土で作って一コマずつ撮影するんでしょうね。「ミーバ」では「ウドン粉の化け物」なんて言ってるわ。空中に突然ポッと現われて、次々に姿を変え、そして消えてしまう。・・で、こういうことがなぜ起こるのかの説明なんだけど、私達が今いるのは三次元の世界。たて・横・高さの世界。でも二次元の世界とも接している。二次元は例えば紙に描かれた絵のようなもの。厳密に言えば紙にも高さ(厚み)はあるけれど、それはまあ置いといて・・。二次元の世界にいるものには、三次元のものはどう見えるか。もちろん高さがないのだから見ることはできないけど、見えたとして・・。例えば紙の上に立方体を置けば、二次元にいるものには四角い形が見える。球体が置かれていれば、二次元のものには紙と接している小さな点が見えるでしょうね。つまり三次元で見ている形と、二次元で見ている形は違うのよ。これが動いているものだったらどうかしら?例えばボールが紙の上ではずんでいたら・・。二次元の世界では小さな点が現われたり消えたりの怪現象となるわ。

ソラリス11

それと同じで、三次元の世界では四次元の世界のものの完全な形を見ることはできないのよ。見えたとしてもとても説明のつかないような奇妙な形、現われ方をするでしょうね。残念ながら「アトム」の単行本ではこの部分がカットされているけど、「少年」掲載当時にはこのようなわかりやすい説明部分があったのよ。とにかく空中に突然現われ、次々と姿を変え、突然消えてしまう奇怪なウドン粉状の化け物・・原作の<擬態>そのまんまのイメージだと思うわ。もちろん海はそこにあって突然現われたり消えたりするわけじゃないけどね、イメージが・・。こんなこと考えて納得しているのは私だけだと思うけど。これにつけ加えると、過去を出現させる生きたタイムマシン、四次元の世界では生きられず、三次元の世界に置き去りにされた哀れな少年、彼の能力を悪用して過去の世界の財宝を集めまくる強欲な金の亡者・・何だかこの設定でSF映画が一本できそうね。さて「ソラリス」の感想もそろそろ終わりだけど、いくつか気にかかっていることがあるの。ゴードンの「お客」って結局不明なままだけど、いったい誰だったのかしら。姿が見えなくて音だけするでしょ。原作だとゴードンは女性ではなくて男性で、名前もサルトリイバラ・・じゃなくてサルサルニッキ・・じゃなくてサルトリウスになってるわ。クリスに見えるのは麦藁帽子だけで、わけわかんないんだけどこれがまた怖いの。麦藁帽子をかぶったかわいい少女・・なんていうのだったら必死で隠す必要ないと思うし・・。よっぽど奇怪なものなんだろうといろいろ余計なこと想像しちゃうのよ。もっと気になっているのは・・ラストで現われるレイアはどのレイアなの!?私達「お客」は空気がなくても何も食べなくても平気で、原作に出てくる黒人女みたいに相手がいなくなっても消滅するわけでもなく存在し続けるんでしょ?だからレイアのコピーその1はポッドに乗ったまま永遠に宇宙を漂う。コピーその2はゴードンによって消滅させられたからいいとして、この私はコピーその3ということになるのかしら。でもコピーその1がまだ存在しているのにコピーその3が現われたってことは・・コピーその4が現われる可能性もあるってことよね。そんなの許せないわ!クリスは私一人のもの・・でも今のクリスだってどのクリスかわかんないし・・。ああわけわかんなくなってきちゃったわ、もうおしまい!