ドラゴン武芸帳

ドラゴン武芸帳

久しぶりに見た。「死亡の塔」を見て、そう言えば功夫映画も久しく見ていないなあと思って。「ルイス警部」とか「モース」とか、ややこしいのばかり見ていると、こういう単純なもので頭を休めたくなるのだ。これは元々1時間43分あるらしい。大昔ビデオでとったのをDVDにダビングしてある。ビデオは何度もくり返し見たが、DVDにしてからは全然見てない。見てびっくり。録画時間は1時間9分だ。CMは全部カットしてある。ってことは90分枠でやったのだ。30分以上カットされているのだ、ひょえ~。したがって寄り道はいっさいない。出演者全員が生き急いでいるように見える。時々アマゾンとかでDVDが出ていないかどうか調べるけど、全然気配なし。「片腕」なんちゃら、「ギロチン」なんちゃらはいっぱい出てるのに。テレビでも功夫映画はとんとやらなくなった。マカロニ・ウエスタンはしょっちゅうやってるのに。この作品だけでなく、ノーカット版を見たいと思っているのはいっぱいある。「ドラゴンvs7人の吸血鬼」「地獄から来た女ドラゴン」「用心棒ドラゴン」「復讐のドラゴン」などなど。話を戻して、「ドラゴン武芸帳」はダイジェスト版みたいになってるとは言え、出来はなかなかのものだと私は思っている。九華山にはチャオ(ポール・チャン)を首領とする盗賊一味の要塞がある。青陽鎮にある宿の主人は、獲物の情報をチャオに伝えるのが仕事。今も金50万両を運ぶ輸送隊が来ると知らせてきた。チャオは手下と共に待ち伏せし、襲いかかる。見ていて輸送隊の方が優勢に見えるのに、いつの間にか隊長一人になっているのは、カットされたせいだろう。何度もくり返し見ていると、ははぁここがカットされているな・・とわかってくるものだ。隊長はチャオとの一騎打ちになるが、やられてしまう。「この恨みは晴らすぞ」と言って息絶える。大勢で戦っているシーンでは画面は揺れないが、二人で戦っている・・カメラがそばに寄っている時は揺れまくる。他の功夫映画もこんなに揺れたっけ?ちなみにこの映画の脚本と監督はジミー・ウォング。さて、一人で旅する青年パイ(ウォング)。明日から新学期なので、親に床屋へ行かされました・・みたいなさっぱりした髪型。それでなくても童顔でつるんとしているから、ますます子供っぽく見える。

ドラゴン武芸帳2

暑くて乾いてほこりっぽい世界。一人の流れ者。流れる音楽も西部劇のよう。店で茶を飲んでいると、表で騒ぎが・・。若い女性が馬を駆って疾走。道の真ん中に少女がいるのにスピードをゆるめない。誰もが惨事を予想したが、間一髪パイが救い出す。馬はそのまま走り去る。他の客のうわさ話で、あの女性が殺された隊長の娘ティエン(シャンカン・リンホー)で、仇を討つつもりであること、彼女の方が父親よりも武術の腕は上であることなどがわかる。片方は馬を飛ばし、片方は徒歩なのだから、時間的に大きな差が出るはずだが、さほど違わずに着く。たぶん彼女は道を間違えたのだろう!街道沿いの店にパイが立ち寄る。ここの主人は室田日出男氏似。料理担当の男は三波伸介氏が95パーセントにウィリアム・シャトナーが5パーセントと言ったところ。二人ともいろんな映画で見かける。香港製功夫映画は、たとえ主役でも表情に乏しく、演技の硬い人が多いが、その分脇役に表情豊かな芸達者がいて、ちょっとしたことで楽しませてくれる。この二人もそう。店主は長年ここを通る多くの人々を見ているので、善人悪人を見分けることができる。パイに九華山への道を聞かれたが、彼は盗賊の仲間入りするようなタイプには見えない。道は二つある。街道は大回りになる。脇道があってこっちの方が近道だが、途中に古い寺があり、追いはぎが出るといううわさが。この時の料理男の細かい演技が楽しい。で、もちろんパイは脇道の方を選ぶ。次のシーンではパイが青陽鎮に現われるので、途中の出来事・・追いはぎ退治だか幽霊退治・・がカットされているのだとわかる。何もないのなら店主がわざわざあのようなことを言うはずがない。店主は馬を駆る女性の姿も見たと話すから、その部分もカットされたのだ。青陽鎮の宿屋に着いたティエン。二つの短剣や縄を隠そうともしないので、素性はバレバレ。早速主人は賭場などからならず者を集める。少し遅れて着いたパイはそれに気づき、彼女に手紙を書いて知らせようとするが、逆に襲いかかってくる。こういう映画のヒロインの常で、彼女は親の仇を討つことしか頭にない。誰の助力も必要としない。誰も信用しない。自分以外は皆敵。

ドラゴン武芸帳3

話を聞く前に殺そうと襲いかかってくるのだから、危なくてしょうがない。けなげと言うよりかわいげがない。共感しにくい。パイの声はたぶん池田秀一氏で、安心して聞いていられる。ティエンの方は誰がやってるのかわからないが、硬くてうるおいがなく単調で、まるで素人があててるみたいだ。演じているリンホーがまたお化粧ばっちりで。体つきは丸っこいのに、態度やものの言い様はとげとげしい。いや、別にけなしているわけじゃないですよ。ここではそういうキャラが期待されているんだからそういう声、そういう演技でいいんですよ。さて、ティエンは主人から聞きたいことだけ聞き出してしまうと即殺してしまう。パイの制止も聞かない。彼にすればいろいろ情報を聞き出したかったのだが。この主人役の人もよく見かける。重そうなソロバンが武器だが、さして見せ場もないままあっさり退場。翌日例の店で食事中の輸送隊が襲われる。ピンチを救ったのは駆けつけたパイとティエン。店主はやはり自分の目に狂いはなかったと喜ぶ。ここでパイの素性がわかる。北京にいる有名な師匠の弟子で、”鉄拳パイ”として知られているのが彼。この話をしている時の、隊長の隣りにいる男性の表情も変化に富んでいていい。そういうところに目が行くのも、肝腎のアクションシーンがわりと単調で、目を瞠るところがないからだ。「死亡の塔」を見た直後のせいもある。ウォングについては当時の本には中国空手四段などと書かれ、鵜呑みにしていたが(中国空手って何だろうとは思ったけど)、ネットで調べると水泳や水球をやっていて武術の経験には乏しいようで。そう思って見ると、なるほど力に任せて暴れ回っているという感じだ。目のさめるような回し蹴りなんて見たことがない。スローモーションもないな。片足を曲げて、もう片方は伸ばして・・なんていう華麗な蹴り方もなし。よくやるのが飛び上がって両足で蹴る動作。蹴ると言うより足でどついている感じ。まあそれはそれでいいんですけどね。みんなしてブルース・リーの真似をする必要はない。さて、この襲撃にはチャオは来ておらず、当てがはずれたが、チャオの三人の腕利きの手下のうち二人を倒すことができた。二人は次の青草村の宿に。パイは、ティエンの性格が暴走気味なので余計目立つのだが、常識的なタイプ。

ドラゴン武芸帳4

ティエンは例の少女の件も少しは反省する気になったけど、対策を練ってから行動というパイのやり方にはがまんできない。夜のうちに宿を抜け出し、一人で要塞に忍び込む。黒装束だが、髪とか服のあちこちに白いリボンがついている。女らしさを出してみましたってか?でも、ちぐはぐな感じの方が・・。彼女は別に隠れる気もない。騒ぎを起こした方がチャオが出てくるからだ。それくらい自分に自信がある彼女だが、火縄八方攻めにあって失神し、地下牢へ。朝になってティエンがいないのに気づくパイ。彼は一晩中チャオに対抗する武器を考えていたのか。鍛冶屋へ行ってトンテンカンと刀を打ち、アイパッチとむさくるしいヒゲで小悪党に変身。それにしても刀ってそんなにすぐ作れちゃうの?ヒゲもすぐ生えたし。とは言えここらへんはコメディータッチで軽快。この映画のいいところは、あまり悲壮なところや重苦しいところがないこと。さっぱりしている。チャオにアイパッチをはずせと言われ、ピンチかと思ったらちゃんと準備してあるし。素手で丸太割りをするところでは、ちゃんと”継ぎ目”が見えてるし。うまく仲間に入れてもらい、夜になると地下牢へ。しかしもちろん見つかってしまう。チャオは以前パイと同じ師匠についていたが、破門されたらしい。パイがここへ来たのは、金を奪い、人々を苦しめる元弟子の悪業を憂える師匠を見かねたからか。見ていて不思議なのは、あんなに威勢がよかったティエンが弱くなってしまったこと。あの勝気さはどこへ?ネットにはウォングとリンホーが大ゲンカをしたと書いてあるが、具体的なことは書かれていない。終わり頃になってティエンの存在感が妙に薄れたのはそのせいかな?パイとチャオの戦いは長い。にらみ合っているうちに夜が明けてしまう。刀は薄くて、ピラピラとかポワポワとかひっきりなしに効果音が入る。ウォングの動きは前にも書いたように単調なので、相手の動きに目が行く。演じているチャンは、戦っていない時は、目を大きく見開き、「大きく息を吸って~ハイ、止めて~」と言われた時のような表情をしている。つまり型通りの演技なのだが、アクションはなめらか。彼に限らず、冒頭のティエンの父親、中盤の輸送隊の隊長・・もう若くないけど動きはちゃんとしている。こういう脇役の層の厚さが、香港製功夫映画の強味なんだなあとつくづく思った。